行政書士試験における投資とリスク管理 ― 返金・保証制度を戦略的に活用する
行政書士試験の通信講座は、合格を目指す受験生にとって心強い武器となる一方で、高額な受講料と長期間にわたる学習時間という大きな投資を伴います。
しかし、この投資が「不合格」という結果に終わった場合、その損失は金銭面だけでなく、精神的なダメージも計り知れません。
こうした不安を和らげるため、各講座提供事業者は「返金制度」や「保証制度」といったリスク軽減策を打ち出しています。
本稿では、これらの制度を単なる“おまけ”や“販促キャンペーン”としてではなく、受講生の心理に働きかけ、学習行動を促す戦略的ツールとして分析します。
特に、本分析では以下の3つの制度タイプに着目します。
- 成功報酬型(Success-Contingent Reward)
合格を条件に受講料返金やお祝い金を支給するモデル。合格後の達成感と金銭的リターンを組み合わせ、強力な学習モチベーションを生み出します。 - 失敗補償型(Failure-Contingent Insurance)
不合格時に受講料返金や翌年度講座の無償提供などで受験生をサポートするモデル。金銭的損失を抑えつつ、継続学習を後押しします。 - ハイブリッド・ニッチ型
上記の要素を組み合わせたり、特定層(例:再受験者)に特化した制度。受講生の特定のニーズに応えることで差別化を図ります。
本記事の目的は、制度の名称や広告文句にとどまらず、その裏にある契約条件・法的性質・実質的価値を掘り下げて解明することです。
これにより、読者が自分の学習スタイル・リスク許容度に合った最適な制度を選べるようになることを目指します。
第1章|アガルートアカデミー ― 合格で受講料ゼロも可能な挑戦型「成功報酬型」制度
1.1 制度名とコンセプト
アガルートアカデミーが提供する「合格特典」は、合格を条件に受講料の全額返金またはお祝い金5万円のいずれかを選べる制度です。
名称を「特典」としているのは、単なる返金ではなく、合格という成果に対する報酬であることを強調しており、合格者の達成感を引き立てる設計となっています。
1.2 制度概要
対象講座を受講し、目標年度の行政書士試験に合格した場合、所定の条件を満たせば受講料全額の返金、またはお祝い金の受け取りが可能です。
制度の目的は、受講生の成功を講座ブランドの価値向上と直結させ、強力な学習インセンティブを生み出すことにあります。
1.3 対象講座と申込条件
- 対象講座:
「入門カリキュラム/フル」や「中上級総合カリキュラム/フル」など、最も包括的で高価格帯の総合講座が対象。
単科講座やライトコースは対象外で、戦略的に主力商品の販売促進を図っています。 - 申込条件:
個人申込みのみ対象で、法人名義や「教育訓練給付制度」利用時は不可。
これは、公的補助との併用による二重利益を避けつつ、自己投資型の受講生層を主なターゲットとするためです。
1.4 合格後の提出物・協力義務
全額返金を受ける場合、次の4点すべての提出・協力が必須です。
- 合格通知書データ
- 本試験の再現答案
- 合格体験記
- 顔出し・実名での合格者インタビュー出演(Zoom等)
お祝い金(5万円)の場合は、①合格通知書データと③合格体験記のみで可。
なお、インタビューは鮮明な映像と安定した通信環境が条件で、基準を満たさない場合は対象外となる可能性があります。
さらに、全額返金分は「原稿料または講演料」扱いとなるため、源泉所得税が控除され、振込手数料も自己負担です。
1.5 特典内容の詳細
- 返金額:対象講座の支払税抜価格(セール価格適用時はその金額)
- 返金方法:源泉所得税および振込手数料控除後、指定口座に振込
この制度の本質は「合格すれば無料」ではなく、氏名・肖像を広告利用する権利を提供することと引き換えの報酬契約である点に留意が必要です。
1.6 申請手続きの流れ
- 試験合格発表後、1週間以内にアガルートから案内メールが届く
- 案内に従い必要書類・データを提出
- 申請期限は厳格で、期限超過時はいかなる理由でも不可
申請条件や協力義務の内容を事前に理解し、自分がそれを受け入れられるかを冷静に判断することが重要です。
第2章|フォーサイト ― 厳格条件で学習意欲を引き出す「失敗補償型」返金制度
2.1 制度名とコンセプト
フォーサイトが提供する制度は「全額返金保証制度」。
名称に「保証」という言葉を用いることで、講座内容への自信と受講生への安心感を強く打ち出しています。
特徴は、アガルートのように「合格」を条件とするのではなく、「不合格」をトリガーとする点です。
2.2 制度概要
対象講座を受講し、非常に高い学力達成条件をすべてクリアしたにもかかわらず不合格だった場合、受講料が全額返金されます。
この条件設定により、制度は単なるセーフティネットではなく、受講生を徹底的に学習へ駆り立てる行動強化ツールとして機能しています。
2.3 対象講座と適用条件
- 対象講座:
最上位パッケージである「バリューセット3」のみが対象。
高単価商品の販売促進と直結しています。 - 適用条件(全て必須):
- 確認テストで満点:本試験前日までに、eラーニング上の全ての確認テストで100点を取得(再挑戦は可)。
- 学内実力テストで上位成績:全受験者のうち、2025年は上位28%以内、2026年は上位26%以内の得点率を達成。
- 本試験で惜敗:行政書士試験の総得点が合格基準点の85%以上(例:基準180点なら153点以上)かつ法令等科目の足切り基準クリア。
- 教材返却:不合格確定後、使用済み教材一式(テキスト・DVD等)を自己負担で返送。
- 本人確認:受講期間中に本人確認書類を提出。
これらをすべて満たす受講生は、統計的に合格可能性が非常に高く、制度は返金そのものよりも合格に必要な行動を強制する仕組みとして機能しています。
2.4 保証内容の詳細
- 返金額:割引適用後の実際の支払額(送料や分割手数料は対象外)。
- 返金方法:条件達成確認後、銀行振込等で返金。
2.5 申請手続きの流れ
- 講座申込み時に特別な手続きは不要。
- 不合格確定後、eラーニングシステムから不合格通知書を提出。
- 教材一式を返送(合格発表後14日以内が期限)。
- 返送物と条件達成が確認され次第、返金が実行される。
ポイント:条件が極めて厳しいため、制度利用を目的にするよりも、条件達成の過程を「合格するための学習計画」として逆算的に利用するのが賢い活用法です。
第3章|クレアール ― 複数の安心策を組み合わせた多層型「学習継続保証」制度
3.1 制度名とコンセプト
クレアールが提供する「セーフティコース」(例:完全合格カレッジセーフティコース)は、
「不合格でも翌年も挑戦できる」という安心感を軸にした制度です。
名称の「セーフティ」は、経済的・時間的な損失を最小化しつつ、受講生の学習継続を後押しする姿勢を明確に示しています。
3.2 制度概要
本制度は、最初から2年間の受講を前提としたコース設計が特徴です。
1年目に不合格となった場合でも追加費用なしで翌年度の最新講座を受講できる「学習継続保証」が中核。
加えて、1年目合格時の差額返金や受験料負担、合格お祝い金など、複数の特典をパッケージ化しています。
3.3 対象講座と適用条件
- 対象講座:
初学者・中級者・上級者向けなど、学習レベルに応じた各種「セーフティコース」が設定されています。 - 主な適用条件と特典内容:
- 学習継続保証(翌年度講座無料)
1年目が不合格であれば、学力基準を問わず翌年度の最新講座・サポートを無料で提供。 - 未受講分返金制度
1年目で合格した場合、2年コース料金と1年コース料金の差額を返金(合格体験記提出が条件)。 - 受験料負担
初学者向けコースでは、1年目の本試験受験料(10,400円)をクレアールが負担。 - 合格お祝い金
合格時に20,000円を進呈(体験記提出等が条件)。
クレアールの戦略は、一つの制度に頼らず、受講生の不安を多角的に解消する“価値の積層”にあります。
3.4 保証内容の詳細
- 翌年度提供講座:不合格の場合、翌年度の最新カリキュラムとサポートを追加費用なしで提供。
- 追加料金:一切不要(ただし条件は公式サイトで要確認)。
3.5 申請手続きの流れ
- 学習継続保証:不合格であれば自動的に翌年度の受講へ移行(申請不要のケースが多い)。
- 受験料負担:受講生が受験申込後、所定フォームで申請 → 受験確認後に払い戻し。
- 差額返金・お祝い金:合格後にクレアールへ連絡し、体験記の提出等に協力。
※受験料負担の申請には期限があるため、最新情報は公式サイトでの確認が必要です。
ポイント:
フォーサイトやアガルートのように高い学力条件はなく、特に「着実に継続して学びたい」タイプの受験生に適した安心感重視の制度です。
第4章|その他主要事業者の特徴的アプローチ
4.1 LEC東京リーガルマインド ― 再受験者に的を絞った「合格者受講料返還制度」
LECの「合格者受講料返還制度」は、前年度試験の結果発表前に次年度講座を申込み・支払いした再受験予定者を対象とする制度です。
もし前年度試験で既に合格していた場合、次年度講座の受講料が全額返還されます。
- 主な適用条件:
- 合格発表前の指定期間内に次年度コースへ申込み・支払いを完了すること
- 前年度試験に合格していること
- 申請期限内の手続き完了と教材一式の返却
- 制度の狙い:
再受験者が「結果を待つか」「すぐに学習を再開するか」で迷う心理を先回りし、早期囲い込みを図る戦略です。
4.2 スタディング ― シンプルで負担の少ない「合格お祝い金制度」
スタディングは、低価格のデジタル講座を特徴とし、複雑な返金制度は採用せず、代わりに「合格お祝い金制度」を設けています。
対象コース受講生が合格した場合、Amazonギフトカードなどのデジタルギフト1万円分が進呈されます。
- 主な適用条件:
- 合格年度の試験に合格
- アンケートや合格体験記の提出
- 制度の特徴:
金銭的インパクトは小さいものの、受講生の声をマーケティング素材として収集する仕組みとして効率的。
大規模・低価格モデルに適したインセンティブ設計といえます。
4.3 TAC ― あえて返金制度を設けない「価格重視」戦略
TACは、アガルートやフォーサイトのような返金・保証制度を設けていません。
代わりに、申込時点での直接的な割引制度(早割キャンペーン、再受講割引、他資格合格者割引など)を前面に打ち出しています。
- 戦略の背景:
事後的な条件付き返金ではなく、「今すぐ得られる確実な値引き」を重視する受講層に訴求。
返金制度がないこと自体が、価格と条件のシンプルさをアピールする要素となっています。
第5章|制度比較と最適な選び方のポイント
5.1 主要講座の返金・保証制度 比較一覧
予備校 | 制度名 | 制度タイプ | トリガー条件 | 主な特典 | 主な適用条件 | 最大の注意点 | 理想の受講者像 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アガルート | 合格特典 | 成功報酬型 | 合格 | 受講料全額返金 または お祝い金5万円 | 合格体験記提出、顔出し・実名でのインタビュー出演 | 氏名・肖像が広告利用されることに同意が必要 | 合格に自信があり、合格後の広告出演に抵抗のない人 |
フォーサイト | 全額返金保証制度 | 失敗補償型 | 不合格 | 受講料全額返金 | 確認テスト全満点、学内テスト上位26〜28%、本試験で惜敗 | 学力基準が極めて高く、制度利用は困難 | 高負荷条件で自らを追い込み、合格力を高めたい人 |
クレアール | セーフティコース | 失敗補償型(学習継続保証) | 不合格 | 翌年度講座無料受講 | セーフティコース受講 | 1年合格時の返金額は差額のみ | 安心感を重視し、確実に継続学習をしたい人 |
LEC | 合格者受講料返還制度 | ニッチ型(再受験者向け) | 前年度試験合格 | 次年度講座全額返還 | 結果発表前に申込・支払完了、教材返却 | 再受験者限定のため利用機会が限られる | 結果を待たず次年度準備を進めたい再受験者 |
スタディング | 合格お祝い金制度 | 成功報酬型 | 合格 | 1万円分デジタルギフト | 合格体験記提出 | 金額が小さくインセンティブ効果は限定的 | 低コストで学習し、簡単なお祝いをモチベにしたい人 |
TAC | (該当なし) | (該当なし) | (該当なし) | (該当なし) | (該当なし) | 返金制度なし、割引制度中心 | 条件の複雑さを避け、申込時の価格を重視する人 |
5.2 「安心感」の打ち出し方と実態の違い
同じ「安心」を掲げる制度でも、その中身は大きく異なります。
- アガルート:全額返金は魅力的ですが、実態は広告出演契約に近く、氏名や肖像の利用が前提。
- フォーサイト:返金条件が極めて厳しく、返金そのものよりも条件達成までの学習プロセスに価値がある。
- クレアール:学力基準を設けず、実質的な学習継続保証を提供。リスク回避を重視する受講生に向く。
- LEC/スタディング/TAC:
- LECは再受験者特化で、合格発表前からの囲い込み戦略。
- スタディングは低コストで利用者の声を収集するシンプルな仕組み。
- TACは事後的保証ではなく、即時割引で訴求。
5.3 あなたに合った制度タイプの見極め方
自分に最適な制度を選ぶためには、学習スタイル・リスク許容度・合格自信度を明確にすることが重要です。
- 合格に自信があり、広告出演も受け入れられる → アガルート
- 高い基準を自分への課題として課したい → フォーサイト
- 条件よりも継続学習の安心感を重視 → クレアール
- 結果発表を待たずに次年度準備を進めたい再受験者 → LEC
- 低コスト・手軽さを優先 → スタディング
- 制度条件よりも即時割引で価格重視 → TAC
結論:制度は「あるから安心」ではなく、条件や本質を理解して初めて価値が生まれるものです。
契約条件や制度の法的性質まで踏まえて比較することで、後悔のない講座選びが可能になります。

合格できる通信講座ランキング
行政書士の通信講座おすすめ比較ランキング|2年の独学で後悔した私が選ぶ最短ルート