資格の大原 行政書士講座 ― 現状と転換期に立つ理由

公務員試験や会計分野で、長年にわたり圧倒的なブランド力と合格実績を築き上げてきた「資格の大原」。
その名前は、多くの受験生にとって“信頼”や“品質”の象徴とされ、提供する講座全般に対する高い評価と期待感を生み出してきました。

しかし、行政書士講座に目を向けると、そのブランドイメージと実際の成果との間に看過できない乖離が見られます。
特に、かつて公表していた行政書士試験の合格者数は、2012年の231名をピークに年々減少し、2021年には45名まで落ち込みました。
2022年度以降は合格者数の公表を取りやめ、「合格者の声」を数名掲載する形式へ移行しています。
全国合格者総数が減少していない中でのこの数字は、大原が行政書士分野における競争力を低下させていたことを示唆します。

この状況を打開すべく、大原が打ち出したのが、低価格かつオンライン完結型の新講座「パススル行政書士」。
従来の通学中心・高価格モデルから脱却し、モバイル学習やEdTech要素を前面に押し出したこの戦略転換は、
競合するオンライン専業予備校への対抗であり、同時に従来の弱点を補うための試みでもあります。

本記事では、このような変革の背景を踏まえ、

  • 公務員試験で培った指導ノウハウが行政書士試験にどのようなシナジーをもたらすのか
  • 近年の苦戦から導き出された戦略的転換の意義
  • 主要競合との比較から見える現時点での立ち位置

を多角的に検証し、現代の行政書士受験生にとって資格の大原がどのような選択肢となり得るのか、その全体像を明らかにしていきます。

第1部|「公務員試験に強い大原」の実力と行政書士試験への波及効果

1.1 公務員講座で培われた圧倒的な実績と手厚い指導体制

「資格の大原」が公務員試験分野で築いてきた実績は、他の予備校を大きく引き離す水準にあります。
例えば、2024年3月31日時点での全国一次・筆記試験合格率は98.6%
大分校や仙台校では一次試験合格率100%という驚異的な数字も記録されています。
行政書士試験の合格率が例年10%台前半であることを踏まえると、この実績がどれほど突出しているかは明らかです。

この成果を支えているのが、大原独自の「合格メソッド」です。

  • 専任講師+クラス担任制:単なる講義担当ではなく、学習相談・進路指導まで担う専任講師が常駐。担任制により個別の進度や弱点を細かく把握し、きめ細かいフォローを実現。
  • 完全オリジナルテキスト:全国の教職員が過去問を徹底分析し、毎年改訂。図解やイラストを多用し、初学者でも理解しやすい構成。
  • 段階的カリキュラム:基礎→応用→実践という体系的ステップで、ゼロからでも本試験レベルまで到達可能。
  • 徹底した面接・論文対策:自己分析から模擬面接まで、人物試験を突破するための総合支援を実施。

このように、大原は単なる知識伝達にとどまらず、学習管理・モチベーション維持・合格までの伴走を含めた総合的な支援体制を構築しています。

1.2 行政法・民法の科目重複が生む圧倒的なシナジー効果

行政書士試験と公務員試験(特に行政系職種)には、行政法民法という重要科目の重複があります。
大原は公務員試験対策で、これらの科目を長年にわたり研究・改善し、高合格率を支える高度な指導ノウハウを蓄積してきました。

このため、大原の行政書士講座で行政法や民法を学ぶことは、単に試験範囲を網羅するだけでなく、
「公務員試験という高難度試験で実証済みの教授法」の恩恵を直接受けられることを意味します。

実際に合格者からは、

  • 「憲法・民法・行政法の全体像を体系的に理解できた」
  • 「法律の本質を押さえた講義で、理解が格段に深まった」
    といった評価が多く寄せられています。

この構造的な優位性は、行政書士試験単独のカリキュラムしか持たない予備校にはない、大原ならではの強みです。

1.3 公務員経験者との高い親和性とキャリアパス拡張

大原の公務員講座の内容は、将来行政書士として活動するうえでも強い親和性を持っています。
特に地方公務員は、定年退職後に行政書士として開業するケースが多く、一定の行政事務経験があれば試験免除で登録できる特認制度も存在します(行政書士法第2条第1項第2号)。

公務員の業務には、許認可手続・文書作成・法令に基づく住民対応など、行政書士業務と直接関連する分野が多く含まれます。
そのため、公務員試験対策で培った法的思考力や行政手続の知識は、行政書士としての実務にも直結します。

さらに、進路をまだ決めかねている学生や社会人にとっても、大原で学ぶことは「公務員試験と行政書士試験の双方に通じる基礎固め」となり、時間と費用を効率的に活用できる戦略的選択肢となります。

第2部|行政書士講座の戦略転換と現状分析 ― 苦境からの再出発

2.1 合格者数の推移から見える課題

大原の行政書士講座は、かつては安定した合格者数を誇っていましたが、近年はその実績が大きく低下しています。
以下のデータが示す通り、2012年の231名をピークに合格者数は減少を続け、2021年には45名まで落ち込みました。
さらに、2022年度以降は合格者数の公表を停止し、「合格者の声」を数名掲載する形式に切り替えています。

表1:資格の大原 行政書士講座 公表合格者数の推移(2012〜2024年度)

年度大原公表合格者数全国合格者総数大原の占有率(推定)備考
2012231名5,508名4.2%公表
2013192名5,597名3.4%公表
2014183名4,043名4.5%公表
2015200名5,820名3.4%公表
201688名4,084名2.2%公表
2017136名6,360名2.1%公表
201873名4,968名1.5%公表
201965名4,571名1.4%公表
202076名4,470名1.7%公表
202145名5,353名0.8%公表
20225,812名合格者の声のみ
20235,946名合格者の声のみ
20246,165名合格者の声のみ

全国合格者総数が横ばい〜微増傾向で推移している中でのこの減少は、市場環境の変化ではなく、大原の行政書士分野における競争力低下を示すものです。
この状況こそが、大原が抜本的な戦略転換を迫られた最大の要因と言えます。

2.2 新講座「パススル行政書士」への大胆シフト

こうした厳しい状況に対する大原の回答が、2025年試験対策から全面展開される新講座「パススル行政書士」です。
これは従来の高価格・通学中心モデルから、低価格・モバイルファースト・オンライン完結型への大きな方向転換を意味します。

主な特徴は以下の通りです。

  • 価格設定:Web通信講座を74,800円(税込)に設定(初学者は入学金6,000円別途)し、従来の約20万円の価格帯から大幅に引き下げ。
  • 学習形態:1講義5〜10分のショート動画形式で、通勤時間や隙間時間の学習を想定。
  • 教材:フルカラーのデジタルテキストを標準装備。演習問題もプラットフォーム内に統合。
  • サポート:Zoomによる「パススル行政書士ホームルーム」で講師と交流し、オンライン学習特有の孤立感を軽減。
  • 冊子版オプション:希望者には別料金で紙テキスト・問題集を提供し、デジタルに不慣れな層にも配慮。

この戦略は、フォーサイトやスタディングなど低価格オンライン予備校と同じ土俵に立ちつつ、大原ブランドの安心感を付加価値として提供する狙いがあります。

2.3 教材と講義スタイルに見る伝統と革新の融合

従来の大原の通信講座は、通学クラスの授業をそのまま収録する形式が主流で、
「板書が見にくい」「テンポが合わない」といった声もありました。
また、テキストは2色刷りが中心で、他社のフルカラーテキストと比較すると視認性に劣る面がありました。

新講座「パススル」では、この課題に正面から向き合い、大幅な刷新を実施しています。

  • 教材:フルカラーのデジタルテキストを標準化し、視覚的なわかりやすさを向上。問題演習機能も講座内に統合し、別アプリ購入の必要を解消。
  • 講義形式:オンライン視聴に最適化した5〜10分の短尺動画を採用。集中力を保ちやすく、反復学習にも適応。
  • EdTech志向:学習効率や利便性を高めるためのシステム設計に重点を置き、伝統的な指導ノウハウとデジタル化の融合を図る。

この変革は、大原が「予備校」という枠を超え、EdTech企業としての側面を強化しようとしている証左でもあります。
今後は、この新しい学習フォーマットの中で、長年培った「大原品質」をどこまで維持・発揮できるかが成否を分けることになるでしょう。

第3部|主要競合3社との徹底比較 ― 大原の立ち位置を多角的に検証

3.1 公平な比較のための評価フレームワーク

行政書士講座を選ぶ際、単に価格や合格率だけを比較しても、本質的な優劣は判断できません。
そこで本稿では、以下の5つの評価軸を設定し、主要4社(資格の大原・アガルートアカデミー・フォーサイト・伊藤塾)を同条件で比較します。

  1. 料金体系:定価だけでなく、合格特典(全額返金・お祝い金等)や割引制度を含めた実質コストパフォーマンス。
  2. 教材・カリキュラム:テキスト形式(フルカラー・冊子/デジタル)、eラーニング機能、問題演習量と質、指導方針(合格点主義か満点主義か)。
  3. 講師・講義:講師の知名度や指導実績、講義形式(ライブ配信・収録・短尺動画等)、説明の分かりやすさ。
  4. サポート体制:質問対応の回数や質、個別カウンセリング、受講生コミュニティ機能など学習継続支援の仕組み。
  5. 合格実績:合格率や合格者数、算出根拠の透明性。

3.2 各社の特徴とポジショニング分析

資格の大原(パススル)

  • ポジション:再起をかける伝統校。
  • 強み:公務員試験で培った高品質な基礎法学指導(特に行政法・民法)とブランド力。
  • 価格:74,800円(税込)+入学金6,000円。大手予備校としては戦略的な低価格。
  • 特徴:オンライン特化ながら、全国の自習室利用など物理的サポートも提供。
  • 課題:近年の行政書士試験での実績低迷。新プラットフォームの完成度や実績は未知数。

アガルートアカデミー

  • ポジション:ハイリスク・ハイリターン型プレミアムオンライン予備校。
  • 強み:圧倒的な合格実績(2023年度合格率56.11%)と合格特典(全額返金または5万円進呈)。
  • 価格:228,800円〜。ただし合格特典で実質無料になる可能性あり。
  • 特徴:豊村慶太講師による高評価の講義。
  • 課題:初期費用の高さが心理的・経済的ハードルとなる。

フォーサイト

  • ポジション:コストパフォーマンスとUX(学習体験)の両立を追求。
  • 強み:フルカラーテキストと高機能eラーニング「ManaBun」。合格率45.45%(2023年度)。
  • 価格:主要コースは6万円台〜9万円台とリーズナブル。
  • 特徴:「合格点主義」で効率重視。ゲーム感覚の学習機能やライブ授業「eライブスタディ」でモチベーション維持を支援。
  • 課題:コンパクトすぎると感じる受講生も。安価プランは質問回数制限あり。

伊藤塾

  • ポジション:本格派法律専門塾。
  • 強み:法的思考力の養成を重視。法律家としての実務力も視野に入れた教育方針。
  • 価格:268,000円〜と最高価格帯。
  • 特徴:経験豊富な講師陣と体系的な教材、マンツーマンカウンセリング。
  • 課題:合格率非公表。短期合格を最優先する受験生には過剰と感じられる可能性。

3.3 総合比較表

項目資格の大原(パススル)アガルートフォーサイト伊藤塾
コンセプト大手予備校のノウハウ×低価格オンライン合格すれば実質無料、高実績コスパ+UX重視法的思考力養成、本格派
受講料(税込)74,800円+入学金6,000円228,800円〜94,800円268,000円〜
合格特典なし全額返金 or 5万円進呈Amazonギフト券最大2,000円なし
教材デジタル(フルカラー)、冊子版別売フルカラー冊子フルカラー冊子2色刷り冊子
eラーニングパススル(新開発)TOKERUKUNManaBun(高機能)オンラインシステム
質問対応30回まで無料100回まで無料20回まで無料無制限+カウンセリング
公表合格率(2023年度)非公表56.11%45.45%非公表
おすすめタイプ公務員併願、安定志向の初学者高リスク高リターンを狙う人コスパと学習体験重視実務力を見据える本格派

この比較から見えるのは、行政書士講座市場が価格帯・指導方針・サポート体制で明確にセグメント化されているという点です。
大原の「パススル」は、大手予備校のノウハウと低価格を両立させた“中間ポジション”を狙っており、
公務員試験との併願や大手ブランドへの安心感を求める受験生にとって有力な選択肢となり得ます。

第4部|総合分析と結論 ― 資格の大原はどんな受験生に最適か

4.1 大原の強みと弱みを改めて整理

これまでの分析から、大原の行政書士講座(パススル)には、他社にない明確な強みと、改善が求められる弱みが浮き彫りになりました。

強み(Strengths)

  1. 公務員講座由来の高品質な基礎法学指導
    行政書士試験の合否を左右する行政法・民法について、公務員試験分野で長年培った高い指導力と教材の質を有しています。
    この“法学教育エンジン”は、他社が容易に模倣できない独自資産です。
  2. 大手予備校としての信頼感とブランド力
    全国展開と長年の実績が受験生に安心感を与えます。
    特にオンライン学習に不安を抱く層や、安定感を重視する層にとって魅力的です。
  3. 戦略的価格設定による競争力
    74,800円(税込)+入学金6,000円という価格は、大手予備校としては破格。
    フォーサイトやスタディングなど低価格オンライン予備校と価格帯で競合できる立場に立ちました。

弱み(Weaknesses)

  1. 近年の合格実績の低迷
    2012年から2021年にかけて合格者数が大幅減少(約80%減)。
    「パススル」で巻き返せるかは今後の実績次第です。
  2. オンラインプラットフォームとしての後発感
    eラーニング機能は新規開発ですが、長年かけてUXを磨いてきた競合(例:フォーサイトのManaBun)に比べると成熟度は未知数です。
  3. サポート体制の制限
    質問回数が30回に制限されるなど、かつての通学講座並みの手厚いフォローは難しくなっています。

4.2 受験生タイプ別 最適講座の提案

大原(パススル)が向いている受験生

  • 公務員試験との併願を考えている人
    行政法・民法の学習を一度で両試験に対応可能なレベルまで引き上げられるため、時間と費用を大幅に節約できます。
  • 法律初学者で基礎をしっかり固めたい人
    公務員試験で実証済みの高品質な基礎指導と体系的カリキュラムは、初学者にとって大きな安心材料です。
  • 大手予備校のノウハウを低価格で利用したい人
    高額なプレミアム講座(アガルート・伊藤塾)は予算的に難しいが、オンライン専業だけでは不安という層に適しています。

他社が向いている受験生

  • アガルートが最適(ハイリスク・ハイリターン型)
    合格すれば受講料全額返金の特典をモチベーションに変えられる人。
    高額な初期投資を惜しまず、最短合格を狙う実力自信型。
  • フォーサイトが最適(効率・UX重視型)
    コストを抑えつつ、視覚的にわかりやすい教材と使いやすい学習システムを求める人。
    合格点主義のコンパクトカリキュラムで短期合格を目指す層に最適。
  • 伊藤塾が最適(本格派・法曹志向型)
    試験合格を通過点と捉え、法的思考力を深めたい人。
    将来の実務や法律家としての活動を視野に入れ、質と深みを重視する層に適します。

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