目次

第1章|法律を知っている人ほど注意!行政書士試験でつまずく理由

法律学習の経験は、行政書士試験において大きな強みになります。しかし、その“経験”が逆に足かせとなり、不合格につながるケースも少なくありません。
ここでは、法学部出身者や宅建士など法律系資格の保有者が持つ強みを整理するとともに、見落とされがちな落とし穴についても深掘りします。

1.1 法律学習経験者の“強み”とは?——リーガルマインドと基礎知識のアドバンテージ

法学部出身者や宅建士試験合格者など、法律を学んだ経験のある方には、初学者にはない以下のような強みがあります。

■ 法律の基礎がすでにできている

法学部で憲法・民法・行政法などを体系的に学んできた人は、単なる知識の断片ではなく、制度趣旨や法原則から理解していることが多く、法律用語や条文構造への抵抗感も少なくなります。初学者が最初につまずきがちな「法律の読み方」や「条文のイメージ」ができている点は、大きなアドバンテージです。

■ 宅建士資格の知識が活きる

宅建士試験で学んだ民法は、行政書士試験の出題範囲と重なる部分が多く、特に契約・物権・保証といった分野では基礎がすでに定着しているケースが多いです。そのため、スタート地点から「得点源」を1つ持っており、他科目にリソースを集中しやすいという戦略的な優位性があります。

■ 法的思考力(リーガルマインド)が備わっている

法律の学習を通じて身につく「リーガルマインド」──すなわち、条文や判例をもとに論理的に問題を解く力──は、行政書士試験の応用問題や事例問題で大きな武器になります。単なる暗記では対応できない出題に対しても、論理的にアプローチできる点が、法律学習経験者の強みです。

1.2 それでも不合格?法律経験者がはまりやすい“3つの落とし穴”

法律知識があるのに不合格になる――これは、行政書士試験では決して珍しい話ではありません。
経験者が陥りがちな失敗には、大きく次の3つの落とし穴があります。

【落とし穴①】知識の“死角”に気づいていない

  • 会社法が弱点になりやすい
    法学部では民法や行政法を重点的に学ぶ一方で、商法(特に会社法)は履修しない人も多く、試験では取りこぼしがちな科目になります。出題数は少なくても範囲が広く、浅い理解では対応が難しい科目です。
  • 一般知識での“足切り”対策が甘い
    法令科目で高得点を取っても、「一般知識」で基準点(24点)を下回ると不合格になる制度があります。特に「政治・経済・社会」「情報通信・個人情報保護」「文章理解」などは、法律知識とは性質が異なるため、対策を後回しにしがちです。
  • 法改正への認識が遅れる
    大学時代に学んだ民法・会社法が既に改正されている可能性があります。たとえば、2026年施行の改正行政書士法では「特定行政書士の業務拡大」などの重要な変更が含まれており、最新の情報に追いつけていないと不利になります。

【落とし穴②】“試験”への対応力が不足している

  • インプット偏重で演習不足
    テキストを読み込む“理解型学習”に慣れているため、問題演習(アウトプット)に時間を割かず、実戦的な得点力が伸びにくくなります。
  • 記述式対策の軽視
    「法律は分かっているから書ける」と過信しがちですが、記述問題は45字で簡潔かつ的確に解答する訓練が必要です。添削を受けずに独学で対応するのは難しい領域です。
  • 受験テクニックの軽視
    捨て問の見極め、時間配分、選択肢の絞り方など、合格には法律知識とは別の“試験対応力”が求められます。これを軽視すると、実力があっても得点に結びつかないことも。

【落とし穴③】心理的な油断と独学への過信

  • 「自分はできる」という思い込み
    法学部卒・宅建士合格などの実績が、「少しやれば合格できるはず」という油断を生みます。しかし、前年に取った得点が今年も通用するとは限らず、過去の実績への依存は危険です。
  • 非効率な独学に走る傾向
    既に知識があるという自負から「予備校は不要」と判断しがちですが、法改正への対応や出題傾向分析、スケジュール管理などをすべて独力で行うのは負担が大きく、結果的に合格が遠のくこともあります。

経験者ならではの強みを活かしつつ、これらの“見落とし”をいかに回避するかが、行政書士試験合格のカギとなります。

第2章|法律学習経験者だからこそ重視したい“講座選び”の3つの視点

行政書士試験の学習経験者が、効果的かつ短期間で合格を目指すには、講座選びの戦略が欠かせません。
この章では、経験者の特性をふまえたうえで、講座選定において注目すべき「3つの評価軸」を整理していきます。

2.1 カリキュラムの最適化|基礎は速く、弱点は深く補う

学習経験者にとって、時間の効率化は合格の鍵です。
すでにある程度の基礎知識があるからこそ、「基礎は短時間で復習」「苦手分野は重点的に補強」という戦略的なカリキュラム設計が必要です。

■ 中上級者向けのコースがあるか?

初学者向けコースでは、すでに理解している内容を繰り返すことになり、学習効率が著しく低下します。
「中上級者向け講座」や「学習経験者専用カリキュラム」が用意されているかどうかが、まず最初に確認すべきポイントです。

こうしたコースでは、インプット講義が簡潔で、演習や応用に時間を割けるよう設計されていることが多く、経験者にとって理想的な学習環境と言えます。

■ 弱点補強用の単科講座が充実しているか?

「法律に強い」とはいえ、得意・不得意は人それぞれです。
会社法が手薄な法学部出身者、民法以外が不安な宅建士合格者など、自身の弱点をピンポイントで補える単科講座の有無は、講座の柔軟性と価値を大きく左右します。

とくに下記のような単科講座の有無はチェックしておきましょう。

  • 会社法対策講座
  • 記述式対策講座
  • 一般知識(足切り)対策講座

これらが個別に受講できる構成であれば、効率的かつ戦略的に学習を進めることができます。

2.2 演習重視の設計かどうか|“わかる”を“解ける”に変える仕組みがあるか

法律学習経験者がつまずきやすいのは、「理解しているつもり」でも「得点できない」こと。
その壁を超えるためには、演習中心のカリキュラムでアウトプット訓練を積むことが不可欠です。

■ 問題演習や模試がカリキュラムに組み込まれているか?

「インプット→アウトプット」の繰り返しが、合格力を育てます。
とくに以下のようなアウトプットメニューが充実している講座を選ぶと、実戦力の養成につながります。

  • 科目別答練(演習問題+解説講義)
  • 記述式特訓
  • 全国模試(本番環境に近いシミュレーション)

例えば、TACの「スーパー答練」のように、答練がカリキュラムの中心に据えられている講座は、演習量を重視したい方に適しています。

■ 記述式の添削サポートがあるか?

記述式問題(配点60点)は合否に直結する重要パートです。
その対策として、「講師やAIによる添削指導」があるかは講座選びの決定的なポイントになります。

添削を通じて、誤った書き方のクセを早期に修正できること、模範解答とのギャップを客観的に把握できることは、独学では得られない価値です。

2.3 コストパフォーマンスと運営の信頼性|“割引制度”と“法改正対応力”に注目

受講料だけで判断するのは危険です。学習経験者向け講座では、価格以上に「投資対効果」と「信頼性」を重視すべきです。

■ 割引制度の有無と内容

予備校が学習経験者をどう位置付けているかは、割引制度を見れば分かります。
以下のような制度があれば、費用面での負担を軽減しつつ、ターゲットとしての優遇も受けられます。

  • 宅建士合格者割引
  • 他資格合格者割引
  • 行政書士試験の受験経験者割引
  • 他校からの乗り換え割引

割引の有無だけでなく、割引率や対象条件も事前に確認しておきましょう。

■ 法改正への対応実績

行政書士試験は、法改正の影響を強く受ける試験です。
特に、2026年施行の行政書士法改正(使命規定の明文化・特定行政書士の業務範囲拡大など)は出題可能性が非常に高く、教材や講義が最新法令に対応しているかどうかが合否に直結します。

信頼できる講座は、こうした法改正情報を即座に教材に反映する体制が整っており、その点も大きな評価材料です。

学習経験者だからこそ、「どこで時間と労力を使うべきか」を見極めることが重要です。
上記の3つの視点を軸に、自分に合った講座を選ぶことで、合格までの距離はぐっと縮まります。

第3章|主要な通信講座を徹底比較:法律経験者向けおすすめコース一覧

ここでは、前章で整理した評価基準(中上級者向けカリキュラム・演習重視・割引制度・信頼性)をもとに、法律学習経験者に適した主要な通信講座を比較していきます。

比較対象となるのは、次の4つの有力予備校です:

  • アガルートアカデミー
  • 伊藤塾
  • TAC(資格の学校)
  • LEC東京リーガルマインド

各講座が提供する「学習経験者向けコース」について、価格や特徴、記述式添削の有無などを一覧で整理しました。

3.1 一目でわかる!行政書士講座比較表(中上級者・経験者向け)

予備校名対象コース名コンセプトの特徴受講料(税込)主な割引制度記述式添削の有無
アガルートアカデミー中上級総合カリキュラム(ライト)他資格試験の良問を活用し、“現場対応力”を重視。初見問題に強くなる訓練設計。285,120円他校乗換20%、受験経験者10%、他資格10%など✕(記述演習80問あり)
伊藤塾上級コース法律の「なぜ」にこだわる。3ステップで実力を段階的に引き上げる王道型。238,000円受験経験者20% など✕(明記あり)
TAC答練本科生S「スーパー答練」を軸に、演習中心で“得点力”に特化したアウトプット重視設計。220,000円受験経験者20% など✕(添削なしと明記)
LEC東京リーガルマインド中上級パーフェクトコース(例年)バランス重視。インプットとアウトプットの段階的訓練+添削サポートもあり安心。215,000円〜他資格合格者20%など〇(詳細は要確認)

本表の情報は2025年8月時点の内容に基づいています。コース名称や料金、割引制度、サービス内容は年度によって変更される可能性があります。最新情報は各公式サイトをご確認ください。

第4章|講座ごとの強みを徹底解剖|タイプ別の選び方ガイド

同じ「学習経験者向け講座」といっても、各予備校が打ち出す戦略や講義設計には大きな違いがあります。
この章では、それぞれの講座の個性や注目ポイントを具体的に解説し、自分に合った講座選びのヒントを提示していきます。

4.1 アガルートアカデミー|現場思考力を鍛える戦略的カリキュラム

アガルートの最大の特長は、「現場対応力(初見問題への対応力)」を鍛える設計にあります。
行政書士試験の過去問だけでなく、司法試験や司法書士試験などの他資格の良問を取り入れ、応用力を意識的に育成するカリキュラムです。

■ 主な特徴

  • 「ジグザグ学習」方式(インプットと演習の交互設計)により、知識の定着を効率化
  • 文章理解や逐条解説など、苦手分野に特化した講座あり
  • 記述式80問の演習付き(添削サービスは原則なし)
  • 割引制度が非常に豊富(他校乗換、受験経験者、他資格合格者など)

■ 向いている人

  • 本試験で初見問題に動じない応用力を鍛えたい方
  • 自分の弱点を自覚しており、特定分野を集中的に補強したい方
  • 他資格からのステップアップを検討している方

4.2 伊藤塾|法律の本質理解を重視する、学問的アプローチ

伊藤塾の講義スタイルは、法律の「なぜ?」に徹底して向き合う、学問的で体系的なアプローチが特徴です。
「上級コース」では、基礎の再確認から応用・解法技術まで、段階的に実力を高める構成となっています。

■ 主な特徴

  • ステップアップ方式(重要論点 → 応用演習 → 解法技術)の構造
  • 全123時間のインプットに加え、30時間の解法トレーニング、模試2回を実施
  • 記述式問題の指導はあるが、添削サービスは提供されていない(公式に明記)
  • 割引制度:受験経験者割引(20%)などあり

■ 向いている人

  • 法律の構造理解に重きを置きたい方
  • 法学部出身者で「理解はあるが、試験対応が不安」という方
  • 着実に実力を積み上げたい慎重派の学習者

4.3 TAC|「得点力」に直結する演習主義のアウトプット特化型

TACの「答練本科生S」は、行政書士試験の合格に必要な「得点力」を最短で身につけることを目的に設計された、アウトプット特化型の講座です。
特に「スーパー答練」と呼ばれる大ボリュームの問題演習が強みです。

■ 主な特徴

  • カリキュラムの大半が演習(全63回中、答練+解説が中心)
  • 要点整理に絞った上級講義付きで、インプット時間は最小限
  • 記述式問題を含むが、添削はなし(公式に明記)
  • 割引制度:受験経験者割引(20%)など

■ 向いている人

  • 法律知識はあるが“試験としての得点力”に課題を感じている方
  • 演習中心の実践型学習に集中したい方
  • 時間が限られており、得点効率を最優先に考えたい方

4.4 LEC (東京リーガルマインド)|バランス重視+添削付きの安心設計

LECは、伝統ある資格予備校として、網羅的なインプットと段階的アウトプットのバランス型カリキュラムを提供しています。
中上級者向けの「パーフェクトコース」では、記述式添削が含まれている点も大きな魅力です。

■ 主な特徴

  • 全範囲をカバーする講義と答練、模試を組み合わせた総合設計
  • 単科講座も充実(会社法、一般知識などの弱点補強に最適)
  • 記述式の添削サポートあり(詳細・回数は年度によって異なる)
  • 割引制度:他資格合格者割引(20%)など

■ 向いている人

  • バランスよくインプット・アウトプットを積み上げたい方
  • 記述式の添削を受けながら実力を確認したい方
  • 過去に独学で失敗し、再チャレンジで確実に合格したい方

4.5 辰已法律研究所|司法試験・司法書士経験者に最適な超上級講座

辰已法律研究所は、司法試験や司法書士試験など、より難関な資格向け講座で定評のある予備校です。
行政書士講座もその流れを汲み、高度な法律知識を前提とした専門的な内容となっています。

■ 主な特徴

  • 「リーダーズ式 上級ファンダメンタル講座」など超上級者向けに特化
  • 司法試験・司法書士の受験経験者を想定した内容構成
  • 通常の行政書士受験生にはハードルが高く、対象は限定的

■ 向いている人

  • 民法や会社法に圧倒的な自信がある司法試験経験者
  • 一般的な講座では物足りない、知識レベルの高い受験生
  • 行政法と一般知識だけを重点的に学びたいハイレベル層

それぞれの講座には明確な特徴があります。
ご自身の「現在地(実力・過去の学習歴)」と「目的地(合格までの最短ルート)」を照らし合わせながら、最も相性の良い講座を選びましょう。

おわりに|“法律経験”を“合格”につなげるために|講座選びは戦略で決まる

法学部での学びや、宅建士などの法律系資格を通じて得た知識や経験は、行政書士試験において大きな武器になります。
しかし、その経験があるがゆえの油断や非効率な独学が、合格を遠ざける原因になることも少なくありません。

行政書士試験は、「法律の理解」だけでは乗り越えられない、“試験としての技術”も求められる国家試験です。
だからこそ、限られた時間とエネルギーを最大限に活かすためには、自分の強み・弱みを客観的に見つめ、それに合った戦略をとることが不可欠です。

本記事で紹介したように、各予備校の講座には、それぞれ明確な設計思想があります。

  • 応用力重視のアガルート
  • 学問的理解を深める伊藤塾
  • 圧倒的な演習量で得点力を磨くTAC
  • バランス重視+添削ありのLEC
  • 超上級者向けに特化した辰已法律研究所

どの講座が自分に最適かは、「今の自分に何が足りないのか」「どのスタイルなら最後までやり切れるのか」によって異なります。

あなたの経験は、合格への大きな財産です。
それを“確かな成果”へとつなげるには、正しい講座選びと、明確な戦略が必要です。

どうかこの比較記事が、あなたの合格への一助となることを願っています。

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