目次

第1部|速報に振り回されないために──解答速報の正しい受け止め方

1.1 解答速報はいつ・どこで出る?──主要予備校の動きと特徴

行政書士試験が終わると、ほとんどの受験生がまず注目するのが「解答速報」です。各大手予備校は、試験当日の夕方から夜にかけて、解答速報をウェブサイトやYouTubeライブなどで公開します。

たとえば、以下のようなスケジュールで公開されるのが一般的です。

  • 伊藤塾:18時頃からYouTubeでライブ配信し、その中で講師が問題を読み上げながら解答を解説。
  • アガルートアカデミー:18時頃から速報を発表し、YouTubeでもライブ配信。
  • LEC東京リーガルマインド:19時頃から「解答速報会」として配信。
  • TAC:ウェブサイト上で速報を公開し、後日講評動画を掲載。
  • フォーサイト/スタディング:速報とあわせて講評や注意書きを同時に掲載する形式。

このように、各予備校は「どこよりも早く」を競い合うように解答速報を公開しています。これは、受験生の関心の高さを逆手に取ったブランディング戦略の一環でもあります。

しかし注意すべきは、この時点での解答はあくまで「速報値」であり、確定的なものではないという点です。講師陣が即日で作成したものであり、後日修正されるケースも少なくありません。速報に過度に一喜一憂せず、冷静に情報を受け止める姿勢が重要です。

1.2 「解答割れ」はなぜ起きる?──速報の信頼性をどう見るか

複数の予備校を比較してみると、「この問題の正解はAだ」「いやBだ」と意見が分かれる、いわゆる「解答割れ」が毎年必ず発生します。これは、単なる誤答ではなく、試験問題の性質上、解釈が分かれるのが当然であるケースが多いのです。

具体的な要因としては、以下のような点が挙げられます。

  • 法的解釈の違い:判例の趣旨をどう捉えるか、問題文の文言をどう読むかで、結論が変わってくることがあります。法律家の中でも見解が分かれるような問題も出題されるため、予備校ごとの見解の違いがそのまま解答に現れます。
  • 適用法令の捉え方の違い:記述式問題では、どの法律に基づくべきかで見解が分かれることもあります。たとえば、民法の問題で民法だけに基づく予備校と、民事執行法まで含めて答える予備校では、模範解答が異なるのは当然です。
  • 「基礎知識」科目の曖昧さ:政治・経済・個人情報保護などの基礎知識科目は、範囲が非常に広く、受験生・予備校側ともに判断が難しい分野です。時事的要素が含まれることもあり、根拠の取り方にバラつきが出やすい領域です。
  • 出題ミスの可能性:まれに、明らかに選択肢が矛盾していたり、正答が存在しない問題も出題されます。このような問題は、後に「没問」となり、全員正解扱いになることもあります。

このように、解答速報の信頼性は高いとはいえ、完全なものではありません。特に解答割れが生じている問題については、最終的な判断を保留するのが賢明です。複数の予備校の解答を比較し、「一致している問題」を中心に自己採点を進めましょう。

1.3 自己採点と本番結果がズレる理由──記述式採点の“ブラックボックス”

「自己採点では合格ラインを超えていたのに、不合格だった」という声は毎年のように聞かれます。その主な原因は、記述式問題の採点基準が完全に非公開であり、“ブラックボックス化”されている点にあります。

記述式問題は全3問・配点60点と非常に比重が大きく、その採点が合否を左右します。ところが、行政書士試験研究センターは具体的な配点基準を明らかにしておらず、「何を書けば何点もらえるのか」は推測するしかありません。

さらに、業界内では以下のような「調整弁」的な運用がされているとも言われています。

  • 択一式の平均点が高かった年 → 記述式を厳しく採点して合格者数を絞る
  • 択一式の平均点が低かった年 → 記述式を甘く採点して合格率を調整する

このように、記述式の得点は「自分の出来栄え」だけではなく、「その年の全体的な受験者のレベル」によっても大きく変動します。

したがって、模範解答と自分の解答が似ているからといって、楽観的な予測を立てすぎるのは危険です。逆に、部分点の存在により、思いがけず点数が入ることもあります。

結論として、自己採点はあくまで「目安」であり、記述式の点数に関しては過信せず、幅を持った予測が必要です。「何点取れていそうか」ではなく、「どんな採点基準でも対応できる行動をとる」ことが大切です。

第2部|合否を左右する!自己採点のやり方と注意点

2.1 択一・多肢選択の自己採点──保守的に見積もるのが鉄則

試験直後、最初に取りかかるべきは「客観式」の自己採点です。ここで重要なのは、“希望的観測”ではなく、“最も厳しめの見積もり”を採用すること。とくに合格ライン付近の方にとっては、このスタンスが合否の見通しを冷静に立てるための鍵となります。

自己採点の基本ステップ

  • 複数の予備校の解答を参照
    伊藤塾・LEC・TACなど、最低3つ以上の予備校の解答速報を集めましょう。
  • 解答が一致している問題を「正解」とみなす
    5肢択一式は1問4点、多肢選択式は最大8点(空欄ごとに2点)で採点します。
  • 解答が割れている問題は「不正解」とみなす
    極めて保守的に見積もり、「最悪のケース」を想定することで、期待値のブレを最小限に抑えられます。
  • 転記ミス・マークミスの確認も忘れずに
    問題冊子のメモや記憶を頼りに、マークずれ・記入漏れなどがなかったかを丁寧にチェックしてください。

足切りラインの確認も最優先

自己採点が終わったら、まず「基準点(足切り)」をクリアしているかを確認しましょう。

  • 法令等科目(択一+多肢選択):244点満点中122点以上
  • 一般知識等科目:56点満点中24点以上

このいずれかを下回っている場合、総合得点に関係なく不合格となるため、最重要の確認ポイントです。

2.2 記述式の自己採点はどうする?──「キーワード採点」と予備校分析の活用法

記述式の採点は、択一とは異なり「正解・不正解」の判断だけでは済みません。配点60点という大きなウエイトを占めるこのパートこそ、自己採点の精度が最も問われる領域です。

採点の基本原則:「部分点」の存在を前提にする

行政書士試験の記述問題は、採点基準が公開されていない“ブラックボックス”ですが、各予備校が公表する「採点予想」には多くのヒントがあります。重要なのは、模範解答をそのまま丸写しできていなくても、「キーワード」が入っていれば加点される可能性があるという点です。

たとえば:

  • 「誰が」「誰に対して」「何の訴訟か」など、構成要素の一部が含まれていれば、部分点が加算されるケースが多いです。
  • TACはキーワードごとの予想配点を公表するなど、最も詳細な採点予測を提供しています。

採点スタイルを3段階で整理

  1. 厳格採点(辛口):TACの予想配点を基準に、キーワードが完全一致している場合のみ加点。
  2. 寛容採点(甘口):意味が通じる範囲で、多少の誤記や表現の違いがあっても部分点を加える。
  3. 現実的予測:上記2つの中間値をとって、自分の現実的な得点を予測する。

こうした多面的な見方で採点することで、過度に期待したり、逆に落ち込んだりするリスクを回避できます。

2.3 自己採点結果をどう受け止めるか──点数別シナリオと心構え

自己採点の結果が出たら、次に必要なのは「その結果をどう受け止めるか」です。ここでは、得点別に3つの典型的なシナリオを示します。

【ケース①】190点以上(合格基準180点を大幅に上回る)

この場合、合格の可能性は非常に高いといえます。ただし、マークミスや記述式の採点基準による変動のリスクはゼロではないため、油断せずに「合格後」の準備を進めつつ、発表まで冷静に待ちましょう。

【ケース②】160点未満(寛容採点でも合格点に届かない)

残念ながら、今年の合格は厳しいと考えるのが妥当です。希望的観測はかえって心の負担になります。できるだけ早く気持ちを切り替え、「敗因分析」と「来年への準備」に時間を使うほうが前向きです。

【ケース③】170点〜185点(いわゆる“ボーダーライン”)

もっとも悩ましいのがこのゾーン。合否は、記述式の採点の“さじ加減”次第です。択一で高得点でも、記述が辛口採点だった場合は不合格になることもあります。

このケースでは、「合格」と「不合格」両方の可能性を見据えて行動するのが最善です。

  • 合格の可能性に備えて、キャリアプランや登録手続きの情報収集を開始。
  • 不合格の可能性に備えて、試験勉強の継続や敗因分析の準備。

発表までの期間を“ただ待つ”のではなく、どちらの結果でもすぐに動けるようにしておくことが、精神的な安定につながります。

第3部|合格発表までの時間を“意味ある期間”に変える方法

3.1 試験後のメンタルケア──燃え尽き症候群にどう向き合うか

行政書士試験という長期戦を終えた直後、多くの受験生が経験するのが、目標を失ったような脱力感――いわゆる「燃え尽き症候群」です。これは異常なことではなく、むしろ一生懸命取り組んできた証ともいえます。

まずは「感情をそのまま受け入れる」

  • 解放感、疲労感、不安、無力感――これらは自然な反応です。
  • 「頑張ってきた自分だからこそ、こう感じて当然」と、自分を肯定してあげましょう。

情報との距離をとる:戦略的デジタル・デトックス

  • SNSや掲示板で他人の自己採点や合格予想を目にすると、不安が倍増します。
  • 自分に必要のない情報にはあえて触れず、精神的な安定を優先しましょう。

意識的な「休息」は努力の一部

  • 趣味を楽しむ、家族や友人と過ごす、軽い運動をするなど、心と体のメンテナンスに時間を使ってください。
  • 勉強から少し距離を置くことは、長期的には学習効率の向上にもつながります。

感情を“言葉”にして外に出す

  • 頭の中でぐるぐるしている不安や焦りは、ノートに書き出したり、信頼できる人に話したりすることで整理されます。
  • 書く・話すという行為が、心の再構築に役立ちます。

3.2 【ケース①】合格の可能性が高い・ボーダー上の人の行動戦略

自己採点の結果、合格が現実的に見えてきた方にとって、この時期は“次のステージ”への助走期間です。合格発表を待ちながら、着実に未来に備える行動を始めましょう。

キャリア設計の二大選択肢を検討

  1. 独立開業型行政書士
  • 魅力:高収入・自由な働き方・自己実現
  • 課題:経営力・営業力・安定収入までの時間
  1. 企業・士業事務所への就職
  • 魅力:安定した収入・実務経験を積める・案件の幅広さ
  • 課題:自由度の低さ・収入の上限

自分の価値観やライフスタイルと照らし合わせて、進むべき道を考えましょう。

行政書士登録に関する正確な知識を整理

  • 合格=自動的に行政書士になれる、わけではありません。
  • 業務を行うには、日本行政書士会連合会への登録都道府県行政書士会への入会が必須です。
  • 試験合格の「資格」は有効期限なし。ただし実務開始には登録が不可欠です。

独立希望者は“開業準備”に着手を

  • 開業資金(登録料、事務所設備等)
  • 集客戦略(HP、SNS、ターゲット業務の選定)
  • 開業予定時期と家庭環境の調整

今この時期に準備しておくことで、合格後のスタートダッシュが圧倒的にスムーズになります。

3.3 【ケース②】不合格を見据える人の準備──敗因分析から再出発へ

もし自己採点の結果が厳しい場合でも、それは「次の合格のための最重要な分析期間」でもあります。ここでの行動が、来年の結果を大きく左右します。

第1ステップ:「敗因の見える化」

  • 「勉強不足だった」「時間が足りなかった」といった抽象的な反省では不十分です。
  • 各科目・各設問について、以下のように具体的に分析します:
ミスの原因分類
① 知識不足そもそも初見だった問題
② 知識の不正確さうろ覚えでミスした問題
③ 応用力不足知識はあったが応用できなかった問題
④ 読解・ケアレスミス記述の趣旨を外した、転記ミスなど
⑤ 時間配分ミス最後まで解ききれなかった問題

予備校の正答率・ランク表なども活用しながら、自身の弱点を数値化・視覚化することがポイントです。

第2ステップ:学習戦略の再設計

  • 基礎の再構築:Aランク問題で落としている場合はテキスト精読からやり直す。
  • 過去問の活用法を見直す:正誤確認だけでなく、「なぜそうなるのか」を自力で説明できるように。
  • 学習環境の見直し:独学で限界を感じたら、予備校・通信講座の導入を検討する。

勉強再開の“タイミング”を意図的に選ぶ

  • 十分な休息をとったうえで、1月〜2月から軽く復習を始め、合格発表後に本格始動する人が多い傾向です。
  • 試験直後の11月・12月から始めたい人も、まずは“戦略を立ててから”動くのが成功パターン。

大切なのは、「再スタート」を惰性ではなく、計画的に踏み出すこと。2年目も800時間以上の勉強が必要になると覚悟しておくことが現実的です。

第4部|合格発表の正確な確認方法と時期

4.1 合格発表はいつ・どこで?──公式情報のチェックポイント

行政書士試験の合格発表に関する“唯一の信頼できる情報源”は、一般財団法人 行政書士試験研究センターです。ネット上にはさまざまな予想や噂が飛び交いますが、公式発表だけが事実として扱える情報です。

合格発表の時期(例年の傾向)

  • 合格発表は、毎年1月の最終水曜日 午前9時に行われます。
  • 例えば令和6年度試験(2024年実施)の場合、2025年1月29日(水)午前9時が発表日でした。

公式発表の確認先

  • 公式サイトURL:https://gyosei-shiken.or.jp/

このウェブサイトで、合格者の受験番号一覧や統計資料、合格基準点などの正式な情報が公示されます。発表時刻にアクセスが集中し、表示が重くなることもあるため、時間をずらして再確認するのも一つの方法です。

4.2 合否の確認方法とその違い──ウェブ・掲示板・通知書を使い分ける

合否の確認方法には、次の3種類があります。それぞれの特徴を理解しておきましょう。

① ウェブサイトによる確認(最速)

  • 発表当日9時から、研究センター公式サイトにて合格者受験番号がPDFで公開されます。
  • 最も早く結果を知ることができ、多くの受験生がこの方法を利用します。

② 現地掲示板での確認(東京)

  • 試験研究センター(東京都千代田区)に受験番号一覧が掲示されます。
  • 発表当日に現地へ行ける方で、「掲示板で結果を見たい」という方に適しています。

③ 郵送による合否通知書(正式通知)

  • すべての受験者に対して、圧着はがき形式の「合否通知書」が郵送されます(欠席者を除く)。
  • 通常は、発表から数日後〜2月上旬頃に届きます。

この通知書には、以下の情報が明記されています:

  • 総得点および各科目ごとの得点
  • その年度の合格基準点
  • 合否結果(「合格」または「不合格」)

自己採点との照合、敗因分析において非常に重要な資料ですので、必ず保管しておきましょう。

合格証の送付について

  • 合格者には、後日、正式な「合格証」が簡易書留で郵送されます(例年2月中旬頃)。
  • 再発行はできませんので、行政書士登録手続きまで大切に保管してください。

このように、「速報としての確認」「分析資料としての通知書」「公式資格証としての合格証」、それぞれの役割を理解し、必要に応じて使い分けましょう。

おわりに|“待つ時間”を“備える時間”に変えよう

行政書士試験が終わり、合格発表を待つまでの約2ヶ月半は、ある意味では“空白の時間”とも言える期間です。しかしこの時間をどう過ごすかで、その後の人生の動き出し方が大きく変わります。

合格の可能性が高い方は、次のステージ──開業・就職・登録手続き──に向けた準備を、今のうちから静かに始めておくことが、後の加速につながります。

一方、不合格の可能性が高いと感じる方も、落ち込んで立ち止まるより、「敗因分析」という建設的な行動に早めに着手することが、来年の合格への最短ルートになります。

この「何も決まっていない期間」こそが、人生を左右する分岐点になることもあるのです。

自己採点の結果に一喜一憂するのではなく、合格でも不合格でも“すぐ動ける自分”をつくっておく。
それがこの試験を通じて得られる、本当の意味での「実務的マインド」なのかもしれません。