目次

基礎知識分野は“足切りリスク”から“得点源”へ──戦略的学習のすすめ

行政書士試験では、「法令等科目」が学習の中心となるのは当然のこと。
しかしその一方で、多くの受験生が頭を悩ませるのが、いわゆる「基礎知識」分野です。

中でも「政治・経済・社会(政経社)」は範囲が広く、何から手をつけてよいかわからず、後回しにされがち。
そして試験が近づくにつれ、「基礎知識で足切りになったらどうしよう……」という不安がじわじわと膨らみます。

ところが、2024年度の試験制度改正により、この基礎知識分野は、単なる足切り対策にとどまらない「得点源」として活用できる科目へと進化しました。
出題傾向が明確化し、学習戦略を立てやすくなった今、むしろ合格に向けて武器にすべき分野と言えるでしょう。

本記事では、現役行政書士の視点から、法改正の内容や出題傾向をもとに、足切りを回避しつつ高得点を狙うための実践的な学習法を解説します。
特に多くの受験生がつまずく「政治・経済・社会」については、出題の核心を押さえたうえで、必要最低限かつ効果的な学び方を具体的にご紹介します。

まずは、「なぜ基礎知識対策が重要なのか?」を制度面から明らかにしていきましょう。

第1部 試験制度を正しく理解する:基礎知識分野と足切り基準の全体像

1.1 行政書士試験の構成と「基礎知識」分野の位置づけ

行政書士試験は、全60問・300点満点で構成されており、大きく以下の2つの科目に分かれています。

  • 法令等科目(行政書士の業務に関する法令):46問・244点
  • 基礎知識科目(行政書士の業務に必要な一般的素養):14問・56点

全体の約8割を法令等科目が占めるため、多くの受験生は自然とそこに学習の重点を置きます。しかし、残りの約2割にあたる基礎知識分野を軽視することは、非常に危険です。

なぜなら、この分野には独立した合格基準(足切り)が設けられており、たとえ他の科目で高得点を取っても、ここで基準点を下回ると即不合格になるからです。

つまり、基礎知識は単なる“おまけ科目”ではなく、試験全体の合否を左右する重要な「関門」だといえます。

1.2 足切り制度を正しく理解する:3つの合格条件とは?

行政書士試験に合格するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 法令等科目:244点中122点以上(得点率50%以上)
  2. 基礎知識科目:56点中24点以上(得点率約42.9%以上)
  3. 総合得点:300点中180点以上(得点率60%以上)

特に注意すべきは2つ目の基礎知識基準です。1問4点の14問構成であるため、最低でも6問の正解が必要です。

たとえば、法令等科目で170点を取り、総合得点で180点を超えていたとしても、基礎知識で5問しか正解できなければ不合格になります。この“1問差で不合格”という厳しさが、足切り制度の最大の怖さです。

また、得点のバランスが著しく偏っている場合には、記述式問題が採点対象から外される可能性もあるとされており、すべての分野で安定した得点力が求められる試験であることがわかります。

1.3 2024年度改正でどう変わった?基礎知識分野の新しい出題構成と戦略

2024年度から、「一般知識等」は「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」へと名称が変更され、内容も実務を意識した構成に刷新されました。

この改正は、2023年の行政書士法改正により、「国民の権利利益の実現に資すること」が行政書士の職責として明記されたことを背景としています。試験においても、単なる一般常識ではなく、実務に直結する知識の重要性が強調されるようになったのです。

新しい基礎知識分野は、以下の4つのカテゴリで構成されています。

分野出題数(2024年度実績)目標正解数戦略的重要度特徴
文章理解3問3問最重要出題形式が安定しており、確実に得点できる。読解スキルで対応可能。
情報通信・個人情報保護4問2〜3問出題範囲が明確。個人情報保護法など法令知識が問われるため対策しやすい。
諸法令(行政書士法等)2問2問特定法令に集中した出題。過去問とテキストで確実に対策可能。
一般知識(政経社)5問2〜3問範囲が広く予測しづらい。深追いせず、頻出テーマを重点的に学ぶ。

このうち、文章理解で3問全問正解を狙い、情報通信・諸法令でも高得点を確保し、政経社で最低限の得点を拾うという戦略が、合格ラインを安定して越えるための基本方針になります。

総合的な目標は、足切り基準である6問を大きく上回る最低9問(36点)以上の得点を目指すこと。こうすることで、基礎知識分野を「守り」から「攻め」の科目へと変えることができます。

第2部 広く浅く、でも確実に:政治・経済・社会(政経社)の効率的学習法

基礎知識14問中5問を占める「政治・経済・社会(政経社)」分野は、範囲の広さと出題の多様性から、受験生泣かせの難所です。しかし、学習範囲を明確に絞り、頻出テーマを優先することで、時間をかけすぎずに得点を確保する戦略が実現可能です。

2.1 深入りは禁物──目指すべきは「高校レベル+ニュース検定2級」

政経社の最大の難点は、出題範囲が極めて広く、何でも出るように思えてしまう点です。ですが、行政書士試験で求められるのは「専門的知識」ではなく、社会人としての教養と時事への感度です。

そのため、学習の深さは「高校の教科書レベル」で十分。特に「公共」「政治・経済」「現代社会」の教科書に出てくる基本事項が理解できていれば、必要最低限の基礎力は備わります。

さらに、学習の具体的な目安として非常に有効なのが「ニュース時事能力検定(ニュース検定)」の2級レベルです。2級は、時事問題の背景や論点を多角的に理解する力が求められ、政経社の出題意図と非常に近い内容になっています。

「政経社は深入りせず、ニュース検定2級レベルで止める」──これが合格者に共通する鉄則です。

2.2 インプットとアウトプットの好循環を作る:学習の流れと教材活用法

政経社は「全体をざっくり掴み、あとは過去問で出題傾向を体得する」ことが重要です。以下の学習フローを基本としましょう。

インプット(知識の吸収)

  • 基本テキストの確認:まずは市販テキスト(例:合格革命、出る順など)の「基礎知識」パートを通読し、出題範囲の輪郭を把握します。
  • ニュース検定2級の公式テキスト:政経社の全体像と最新の時事をまとめて学べる最適教材。法律とは違った視点で「考える力」も養えます。

アウトプット(定着と実践)

  • 過去問を活用する:直近10年分の問題を繰り返し解くことで、頻出テーマ・設問パターンに自然と慣れていきます。
  • 弱点の再インプット→再アウトプット:一度解いて間違えた問題は、テキストに戻って確認→もう一度解く、というサイクルを何度も回しましょう。

政経社に割く学習時間は、全体の1〜2割で十分。毎日少しずつ「継続的に触れる」ことで、情報を定着させるのが理想です。

2.3 過去問が教えてくれる頻出テーマ一覧:出るところだけ押さえる

政経社の学習においては、「何がよく出ているのか?」を知ることが最も効率的な学習戦略です。

以下は、過去10年間の出題傾向から導き出された、高確率で出題されるテーマ群です。

【政治】

  • 日本の選挙制度(衆議院と参議院の違い、選挙区制、選挙権など)
  • 内閣・国会の役割と構造、議院内閣制
  • 諸外国の政治体制(米:大統領制/英・独:議院内閣制など)
  • 日本国憲法の基本原理、人権規定、天皇の地位
  • 国際関係・国際機関(国連、主要条約など)

【経済】

  • 日本銀行と金融政策、財政政策(租税・予算・国債)
  • 経済の基礎理論(インフレ・デフレ、需給バランスなど)
  • 国際経済(FTA、EPA、WTO、為替制度など)
  • 戦後の日本経済と現代の課題

【社会】

  • 社会保障制度(年金、医療保険、介護保険)
  • 労働問題(雇用形態、労働法、外国人労働者問題)
  • 環境問題(地球温暖化、リサイクル法、パリ協定など)
  • 現代社会の課題(ジェンダー、少子高齢化、LGBTQなど)

これらの「よく出るテーマ」だけでも、得点源としては十分なパフォーマンスが期待できます。

2.4 時事問題対策の始め方とコツ:ベストタイミングは「試験3ヶ月前」

政経社では、直近の社会情勢に関する「時事問題」が出題されることがありますが、これも深追いは不要です。

対策開始時期は「試験の3ヶ月前」から

行政書士試験は11月に実施されるため、8月頃からの対策で間に合います。早すぎると情報が古くなる恐れがあるため、焦らず、しかし確実に準備を始めましょう。

日常的な情報収集で「下地」をつくる

  • NHKや主要新聞の政治経済ニュースに目を通す習慣をつける
  • NHKの「時論公論」など、背景を丁寧に解説してくれる番組が特におすすめ

直前期に活用すべき教材・講座

  • 『速攻の時事』(公務員試験向け):的中率が高く、受験生に人気のある定番教材
  • ニュース検定公式テキスト(2級):体系的に学べて政経社対策にも直結
  • 予備校の時事対策講座・模試:LECや伊藤塾などがリリースする予想問題は信頼性が高い

時事問題は単独で覚えるのではなく、政経社の頻出テーマと関連付けて理解することがポイントです。
たとえば、日銀の政策ニュースは「金融政策」、国際条約のニュースは「国際関係」や「環境問題」の応用として整理しておくと、記憶の定着と理解が深まります。

第3部 頼れる教材はこれ!基礎知識対策に効く厳選リソース集

基礎知識分野は、出題内容が多岐にわたるため「どの教材を使うべきか」で迷う人も多い分野です。
しかし、市販テキスト・予備校講座・無料動画など、それぞれの特徴を理解して活用すれば、独学でも十分に対策可能です。

ここでは、現役行政書士の視点から、効果的な教材とリソースを厳選して紹介します。

3.1 市販テキスト・問題集の選び方:シリーズごとの特徴を知っておこう

市販教材は、シリーズごとに「わかりやすさ」「網羅性」「持ち運びやすさ」などに違いがあります。自分の学習スタイルに合ったものを選ぶのがポイントです。

以下は、代表的な市販教材シリーズとその特徴をまとめた比較表です。

シリーズ名発行元/著者対象者特徴推奨問題集
合格革命早稲田経営出版初学者〜中級者フルカラーで視覚的に理解しやすく、網羅性が高い肢別過去問集(一問一答で解説が詳しい)
出る順シリーズLEC(東京リーガルマインド)初学者〜中級者出題順に構成され、効率よく学べる。問題集は携帯性に優れるウォーク問(基礎知識編が分かれていて便利)
うかる!シリーズ伊藤塾/日経BP初学者〜中級者理論と実践のつながりを重視し、丁寧な解説が特徴総合問題集(過去問+オリジナル問題)
合格のトリセツLEC完全初学者向けイラストや図表が豊富で、初学者でもとっつきやすいトリセツ基本問題集(視覚的に理解できる構成)

「何冊も買うより、自分に合った1シリーズを徹底活用する」方が、記憶の定着と学習効率の点でおすすめです。

3.2 予備校・通信講座の活用法:独学に“補助輪”をつけるなら

独学ではカバーしきれない部分や、理解が浅くなりがちなテーマに対しては、予備校や通信講座の活用も有効です。

特に、基礎知識分野に特化した講座を選ぶことで、短期間で必要な情報だけを効率的にインプットすることが可能になります。

予備校名講座名・指導方針特徴こんな人におすすめ
伊藤塾基礎知識科目対策講義など「なぜそうなるのか」を深く掘り下げる講義が特徴。体系的な理解を重視。本質的に理解しながら学びたい人
LEC横溝式56点アップ道場などの単科講座実践重視で「得点力を上げる」ことに特化。記憶・演習型の講座が豊富。弱点分野を短期間で補強したい人
アガルート基礎知識・時事オールインワン講座講義・過去問・他資格問題まで含んだ完全デジタル型。スマホ1台で完結。忙しい社会人やデジタル学習に慣れた人

「苦手分野を補強する道具」として割り切って使えば、費用対効果の高い自己投資になります。

3.3 無料リソースもフル活用:YouTube・ニュースサイト・体験記の宝庫

近年では、無料でも質の高い教材・情報が多数出回っています。独学派にとっては、こうしたリソースをタイミングよく活用することが合格の鍵になります。

YouTube講義(おすすめチャンネル)

  • マジでイケてる行政書士講座(ゆーき大学)
    独学者の強い味方。基礎知識分野も含め、全科目で網羅的かつわかりやすい。
  • アガルート最短ルートTV
    人気講師によるサンプル講義。教材購入前の比較にも活用できる。
  • LEC・伊藤塾の公式チャンネル
    直前期の予想講義・Q&A・模試解説など、最新情報が手に入る。

ニュース・時事対策サイト

  • NHK「就活応援ニュースゼミ」
    若者向けに社会問題をかみ砕いて解説しており、政経社対策にも直結。
  • NHK「時論公論(アーカイブ)」
    解説の質が高く、検索性も良い。時事テーマの背景理解に最適。

合格体験記・ブログ

「行政書士試験 基礎知識 体験記」などで検索すると、実際に使った教材・勉強法・周回数などのリアルな情報が得られます。
特に、自分と似た環境(仕事や年齢)の受験生の体験談は、計画の参考として非常に有用です。

基礎知識分野は、適切な教材とリソースを選びさえすれば、最小限の投資で最大限の成果を引き出せる分野です。
「どこまでやるか」を自分で決めて、効率よく取り組みましょう。

第4部 よくある失敗とその回避法:合格を逃さないための実践アドバイス

基礎知識分野での失敗は、「学習時間が足りなかった」だけではありません。
多くの場合、「優先順位を見誤る」「戦略がないまま勉強する」といった、初歩的かつ致命的な判断ミスが背景にあります。

ここでは、受験生が陥りがちな典型パターンと、それを未然に防ぐための行動指針を整理して解説します。

4.1 合格を遠ざける4つの典型的ミス

ミス①:政経社に深入りしすぎて“沼”にハマる

政治・経済・社会の範囲は広く、学ぼうと思えば無限に勉強できます。
しかし、ここに時間をかけすぎて法令等科目の学習時間を削ってしまうのは、もっとも避けるべき失敗です。
出題傾向の把握と“割り切り”が重要です。

ミス②:得点源になる分野を軽視する

文章理解や情報通信・諸法令は、対策が立てやすく確実に点数が取りやすい分野です。
これらを軽く見て準備不足のまま試験に臨むと、政経社頼みの危険な戦いになってしまいます。

ミス③:時事対策を始めるのが遅すぎる、または無対策

時事問題にまったく触れず、または試験直前に一夜漬けで対応しようとするのもよくあるミス。
行政書士試験の出題は、「背景理解」を前提にしていることが多く、表面的な知識だけでは得点に結びつきません。

ミス④:古い教材を使い続けてしまう

2024年度の制度改正により出題内容が一部刷新されています。
それ以前に発行された教材のみで学習を進めると、重要テーマを取りこぼすリスクが高まります。
特に「諸法令」分野は新設された項目であるため、最新版の教材を使うことが必須です。

4.2 失敗しないために今すぐできる具体策

対策①:政経社は「高校+時事」レベルで打ち止め

政経社の学習は、「高校教科書レベル」+「ニュース検定2級相当」に絞り、1〜2割の学習時間内で完結させるように徹底管理を。
必要以上に深掘りしないことが最大の時短です。

対策②:文章理解・個人情報保護・諸法令は“満点狙い”で仕上げる

  • 文章理解は絶対に落とせない3問。読解トレーニングを重点的に。
  • 個人情報保護法行政書士法は、独立した「小さな法令科目」として学習時間を確保。
  • これらの分野で確実に6問以上を取り、政経社の得点変動に備えましょう。

対策③:時事は「通年+直前対策」の二段構えで

  • 通年では「NHK」「新聞」「時論公論」などで背景知識を自然に蓄積。
  • 直前期(8月以降)は、『速攻の時事』や予備校模試でアウトプット中心の学習へ。

対策④:教材は必ず最新版を使う

古い過去問やテキストも参考にはなりますが、必ず2024年度以降対応の最新版教材と併用しましょう。
出題形式の変更や法改正情報が反映された教材こそ、合格への最短ルートです。

基礎知識分野でつまずく最大の原因は、「やるべきこと」と「やらなくていいこと」の区別がついていないことにあります。
限られた時間を“正しい方向”に使うことで、足切りの不安を払拭し、むしろ得点源として活用できる領域に変えていきましょう。

おわりに:基礎知識は“足切り回避”だけでなく“合格を引き寄せる武器”になる

かつて「足切り対策」として後回しにされがちだった基礎知識分野ですが、2024年度の制度改正により、出題の意図や構成が明確化され、今や戦略的に取り組める得点源へと変化しています。

本記事で紹介したように、文章理解・個人情報保護法・行政書士法などは、比較的対策しやすく安定して得点できる分野です。
政経社や時事問題も、“広く浅く”かつ“頻出テーマに絞って”学ぶことで、限られた時間の中でも着実に得点が積み上がります。

基礎知識は、確かに「足切り」という最低限の壁を越えるために必要な分野です。
しかし、それだけではありません。正しく対策すれば、全体の合格点を底上げし、他の受験生と差をつける武器にもなります。

ぜひこの記事の内容をあなた自身の学習計画に取り入れ、「基礎知識=落とされないための科目」ではなく、「合格を引き寄せるための戦略科目」として位置づけてください。