行政書士試験の勉強が進むにつれ、「模試(模擬試験)」という言葉にプレッシャーを感じる方は少なくありません。

「もしE判定だったらどうしよう」「実力不足が明らかになるのが怖い」——とくに仕事や家事、育児などを両立しながら限られた時間で努力を重ねている社会人や主婦(夫)の受験生にとって、模試の存在は不安要素になりがちです。

筆者自身も、当時は3歳の子どもを育てながら働き、独学で2年かけて行政書士試験に合格しました。その経験のなかで痛感したのは、「模試を“合否を測る試練”として受け止めてしまったこと」が大きな誤りだったということです。

模試は、あなたの実力に判定を下す場ではありません。むしろ、今の実力を客観的に“可視化”し、合格に向けて軌道修正するための「最高の戦略ツール」です。

この記事では、模試に対する誤解を払拭し、それを合格への最短ルートに変えるための活用術を、行政書士としての実体験と受験指導の知見をもとに解説します。

読み終えるころには、模試に怯える気持ちは消え、むしろ「次の模試が楽しみ」と思えるようになっているはずです。

目次

第1章 模試の本質を見直す:合格を引き寄せるための思考転換

1.1 点数に一喜一憂するのはやめよう:本当に見るべきは“データ”

模試において最も多くの受験生が陥る誤解は、「高得点=成功」「E判定=失敗」と、模試の“点数”だけに注目してしまうことです。もちろん点数はひとつの指標ではありますが、それはあくまで表層的な結果に過ぎません。

合格する受験生は、模試を「弱点をあぶり出すデータ収集の機会」として活用しています。模試は、本試験前にあなたの現状を客観的に診断し、戦略を見直すための貴重な情報源です。

たとえば、「民法が苦手」と感じていても、模試を通じて「担保物権の先取特権で失点が多い」と具体的に把握できれば、対策の精度は格段に上がります。さらに、全国順位や正答率といった予備校のデータも活用すれば、学習の優先順位や進め方を論理的に組み立てることが可能です。

つまり、模試の本質とは「自分専用の学習ナビゲーションシステム」を手に入れることにあります。点数に囚われず、データを戦略に転換する。この意識の切り替えが、模試を“怖いイベント”から“合格への近道”に変える第一歩です。

1.2 模試には5つの戦略的な価値がある

模試がもたらすメリットは、「実力把握」だけにとどまりません。以下の5つの視点から模試の戦略的価値を整理してみましょう。

① 客観的な実力の見える化

模試は、あなたの現在地を数値化して可視化してくれます。偏差値、順位、正答率などの客観的なデータは、曖昧な自己評価を排除し、戦略的に次の一手を導く材料となります。

② 時間配分の訓練

行政書士試験の180分は、時間管理そのものが勝敗を分ける重要な要素。模試は、本番と同じ時間で実施されるため、時間感覚を体に覚え込ませる絶好のトレーニングになります。

③ 弱点の特定

模試は、あなたが「できていないところ」を容赦なく炙り出します。とくに正答率の高い基本問題で失点している場合、それは合格ラインを左右する“致命的な弱点”です。

④ 応用力の強化

本試験では「見たことがないタイプの問題」が必ず出題されます。予備校模試では、最新の出題傾向を反映したオリジナル問題が多く、基礎知識を応用する力を養う絶好の教材となります。

⑤ 精神面の鍛錬

試験会場の独特な緊張感に慣れるには、模試を活用するのが最も効果的です。会場受験によって、本番さながらのプレッシャーに慣れ、本試験でも冷静さを保つメンタルが鍛えられます。

1.3 模試の本質とは何か?:診断ツールであり、あなただけの問題集である

模試の価値を一言で言えば、それは「最高の診断ツール」であり「最強のオリジナル問題集」です。

模試を受けることで、自分がどこで、なぜ間違えたのかが明確になります。これは、あなたの学習における“優先課題”をピンポイントで特定する行為に他なりません。

さらに、模試で間違えた問題や、曖昧な理解のまま正解してしまった問題を集めた「自分専用の問題集」を作ることができます。これは市販のどの問題集よりも効率的で、得点力を飛躍的に伸ばす鍵となります。

筆者自身も、非効率な独学で失敗した経験から、模試の復習こそが「もっとも合理的な学習法」であることを痛感しました。模試を活かすかどうかが、最終的な合否を分ける要素になると断言できます。

第2章 模試は“いつ・何回・どこで”受けるかがカギを握る:戦略的スケジューリングのすすめ

2.1 模試はいつ受ける?学習進度に連動させるのが鉄則

模試を受け始めるタイミングは、ただの思いつきや予備校のスケジュール任せで決めるべきではありません。あなた自身の学習フェーズにしっかりと連動させることが、模試の効果を最大限に引き出すための鍵です。

多くの合格者や指導者が一致して勧めているのは、「主要科目のインプットが一通り完了してから模試に臨む」こと。知識がまだ不完全な状態で模試を受けても、点数が伸びないばかりか、本質的な学習成果が得られません。

一般的には、8月下旬から9月上旬のタイミングが“初模試”として最適とされています。この時期なら、基礎知識が一定程度定着しており、現状分析に意味のあるデータを得られるからです。

さらに効果を高めたいなら、模試を3段階に分けて戦略的に組み込むのが理想です。

  • フェーズ1(8月下旬〜9月上旬):初期診断
     → 現在の弱点を把握し、今後の修正ポイントを特定
  • フェーズ2(9月〜10月):戦略検証
     → 弱点補強の成果や時間配分などを実戦で試す
  • フェーズ3(10月下旬):最終調整
     → 試験直前の本番リハーサルとして活用

このように模試を「学習戦略の転換点」として位置付けることで、模試は単なる試験ではなく、合格への“マイルストーン”になります。

2.2 模試は何回受けるべき?最適回数は「2〜4回」の範囲内に

模試の回数について、「多ければ多いほど良い」と考えていませんか?それは必ずしも正解ではありません。とくに仕事や育児と両立している社会人受験生にとっては、「量より質」が重要です。

多くの合格者の体験や指導者のアドバイスから導かれる“最適回数”は、2〜4回です。

■ 最低2回はマスト

1回目の模試は“現状診断”に過ぎません。その結果をもとに修正した戦略が有効だったかどうかを検証するため、2回目の模試は必須です。

■ 最大4回までが現実的

模試は3時間以上に及ぶうえ、1回ごとの徹底した復習にはさらに6〜9時間を要します。週1ペースで模試を受けていては、復習の時間が取れず、弱点の修正が追いつかなくなります。

時間に限りがある社会人や主婦(夫)の受験生にとっては、「1回の模試を徹底的に分析・復習する」ほうが、「やみくもに複数回受ける」よりはるかに効果的です。模試は“こなすタスク”ではなく、“学習の転換点”ととらえるべきです。

2.3 予備校ごとの模試を受け比べるべきか?メリットと注意点

「LECと伊藤塾、両方の模試を受けるべき?」「市販模試も使った方がいいの?」と悩む方も多いはず。複数の予備校模試を戦略的に活用するメリットとデメリットを正しく理解しておきましょう。

【メリット】

  • 作問傾向や解説方針の違いに触れられ、本試験での“未知問題”への対応力が鍛えられる
  • 複数の講師陣による視点により、幅広い法的思考に触れられる
  • 解説や成績表のフォーマットが異なるため、情報の見方が多角的になる

【デメリット】

  • 費用がかさむ(1回あたり3,000円〜5,000円程度)
  • 模試の難易度にバラつきがあり、成績に振り回されやすい
  • 復習が間に合わなくなるリスクが高まる

【結論:目的とレベルで使い分ける】

  • 初学者や時間に余裕のない方:1つの予備校模試(例:LECパック)に絞って集中
  • 中上級者や短期合格を狙う方:LECで全体を把握しつつ、直前期に伊藤塾やアガルートを追加して“思考の幅”を広げる

模試は「あなたの戦略に合わせて選ぶもの」であり、「全部使う必要はない」ということを忘れないでください。

第3章 模試の選び方:あなたに合った“闘技場”を見極める

模試の重要性が理解できたら、次に考えるべきは「どの模試を受けるか」という選択です。各予備校や市販模試にはそれぞれ異なる特徴があり、学習スタイルやライフスタイルによって最適解は異なります。

この章では、大手予備校の模試の特徴を比較し、市販模試との違いを整理した上で、忙しい社会人・育児中の方が模試を選ぶ際の具体的な判断基準を提示します。

3.1 大手予備校の公開模試を徹底比較

大手予備校が提供する公開模試は、行政書士試験対策において“実戦の主戦場”ともいえる存在です。それぞれが独自のノウハウと強みを持ち、価格・解説・成績分析の内容などにも大きな差があります。

予備校名価格帯主な特徴想定難易度こんな人におすすめ
伊藤塾約3,000〜5,000円高品質な問題と「的中率」に定評あり。伝統と信頼のブランド標準オーソドックスで信頼できる模試で総合力を測りたい人
アガルート約5,478円約6.5時間の詳細な動画解説付き。成績処理は自己採点形式標準解説講義をじっくり視聴して復習したい人
LEC約4,500円〜(全7回パックあり)受験者数が多く、偏差値・順位・正答率など豊富な個人成績データやや難客観的データを元に徹底分析したい人
TAC単発約3,300円/パック約5,500円記述式添削と詳細解説に定評。分析精度も高いやや難記述対策も含めた総合力を鍛えたい人
フォーサイトパック(2回)約10,800円自宅受験のみ。受講者向け教材の一部。成績処理なし非公開フォーサイト講座と一貫して学習したい人

どの模試も一長一短ですが、目的に応じて適切な予備校を選ぶことで、限られた時間と費用を有効活用できます。

3.2 市販模試と予備校模試の違いを理解する

市販模試(書店等で購入できる模試形式問題集)は、コスト面では魅力的ですが、模試としての本質的な効果においては予備校模試とは異なる点があります。

比較項目予備校模試(会場/自宅)市販模試問題集
費用約3,000〜5,500円/回約1,760円(2〜3回分収録)
受験環境会場で本番さながらの緊張感を体験可能自宅で実施(自己管理が必要)
成績分析偏差値、順位、正答率など詳細データ付き自己採点のみ。客観的評価なし
解説・フィードバック解説冊子+動画講義や解説会がある場合も解説冊子のみ(文字情報中心)
スケジュール管理実施日が固定されており、ペースメーカーになる自由に取り組めるが継続管理が難しい

市販模試は演習量を確保するには有効ですが、学習の方向性を客観的に定めたい場合には、予備校模試のほうが確実性があります。

3.3 忙しい社会人・育児中の方が模試を選ぶ際の判断軸

限られた時間を使って学習する社会人や子育て中の受験生にとって、模試選びのポイントは「お金」ではなく「時間効率」です。

■ 時間を“買う”という発想を

予備校模試には、高精度な成績分析や詳細な解説が付属しています。これらは、自分で行うには何時間もかかる自己分析や情報収集を一瞬で代替してくれる“時間の節約ツール”です。

■ 会場模試は一度は体験しておきたい

本番の緊張感に慣れるためにも、少なくとも1回は会場受験を経験しておくことを強くおすすめします。模試の効果は「自宅で時間を計って解くだけ」とはまったく異なります。

■ 市販模試は“補助教材”として

復習用・演習量確保としては市販模試も有効ですが、それ単体では合格戦略の軸にはなり得ません。軸はあくまで本格的な予備校模試に置くべきです。

模試は“受けて終わり”ではなく、“分析と修正”を繰り返すことで真価を発揮するツールです。 忙しい日々の中で最大限の成果を得るには、効果的な模試選びとその使い方が決定的な差となります。

第4章 模試を“本番化”する:180分のパフォーマンスを最大化する実践戦術

模試の価値を最大限に引き出すためには、単に「模擬的に」受験するだけでは不十分です。本試験と同じ緊張感・同じ時間配分・同じ生活リズムで模試を受けることこそが、実力を本番で発揮するための鍵となります。

この章では、模試を「本番さながら」に仕上げるための準備・時間戦略・問題の解く順番といった、実践的なノウハウを解説します。

4.1 試験前の“ルーティン設計”で集中力を最大化する

模試を単なる確認作業としてではなく、本試験の「予行演習」として活用するなら、前日の過ごし方・当日の起床時間・会場到着までの行動すべてを「再現性のある習慣(ルーティン)」として確立すべきです。

■ 試験前日の準備

  • 新しい知識の詰め込みは避け、既習事項や弱点分野の復習に専念
  • 筆記用具(鉛筆 or シャープペン、消しゴム、腕時計など)の準備を万全に
  • 移動ルートや試験会場の場所を事前に確認
  • 良質な睡眠を最優先に確保する

■ 当日の朝の行動

  • 本試験と同じ時間に起床・食事・移動を実行
  • 会場に早めに到着し、トイレ・空調・座席環境に慣れておく
  • 緊張を受け入れつつも、“いつも通り”の状態に持ち込む

こうしたルーティンを模試段階で確立しておくことで、本番当日に無駄な判断や焦りを減らし、集中力を最大限に発揮できる環境が整います。

4.2 時間配分の“黄金比”を模試で身につける

行政書士試験は180分。限られた時間の中で、法令等択一式・多肢選択式・記述式・一般知識といった多様な形式の問題をすべて解ききらなければなりません。

この時間配分を「感覚」で処理してしまうと、解けるはずの問題で失点したり、記述に時間が足りなかったりするリスクが高まります。

■ 基本モデル(例)

セクション想定時間
法令等択一式(40問)90~100分(1問あたり2分強)
多肢選択式(3問)15~20分
記述式(3問)25~30分
一般知識(14問)25~30分
見直し・予備時間10~15分

■ 戦略的なバリエーション

たとえば、商法・会社法のように「捨て問」にしやすい科目に時間を割かず、その分を民法・行政法に再配分する戦術も現実的です。

このような時間戦略は、模試を通じて自分の得手不得手を把握しながら「カスタム設計」していくのが理想です。

4.3 解く順番に“正解”はない:模試であなたのベストルートを見つける

行政書士試験では、問題をどの順番で解くかによって、精神的安定や時間の使い方が大きく変わります。正解は人によって異なり、模試はそれを探るための「実験の場」となります。

■ 代表的な解答順パターン

  • パターンA:問1から順に解く(王道型)
     → シンプルで迷いが少ない反面、難問からスタートするとリズムを崩す恐れも。
  • パターンB:得意科目から解く(自信構築型)
     → 行政法が得意なら問8から。前半で得点を積み上げて精神的に安定。
  • パターンC:文章理解から始める(得点先取り型)
     → 比較的安定して得点できる文章理解(問58〜60)を最初に処理し、確実に12点を確保。
  • パターンD:一般知識を最後に回す(時間管理重視型)
     → 最後に運要素の強い一般知識を残すことで、学習成果のある法令科目に時間を集中。

■ あなた専用のルートは模試で試して見つける

模試は、これらのパターンを「実際に試す」ための最高の機会です。模試ごとに違う順番で解いてみることで、自分に合った最適な戦術を見出し、本番で最大限の力を発揮できるようになります。

第5章 得点力を劇的に伸ばす「黄金の復習サイクル」

模試の本当の価値は、「受けること」ではなく「どう復習するか」にあります。自己分析・原因特定・再定着というプロセスを丁寧に踏むことで、模試は単なる試験を超えて、あなた専用の“得点強化装置”に生まれ変わります。

この章では、得点力を飛躍的に高めるための「復習サイクル」の実践方法を、具体的かつ体系的に解説します。

5.1 復習は3ステップで完結:Day0/Day1/Day7

復習を効果的に行うには、記憶の鮮度と定着のタイミングを意識した3段階アプローチが有効です。

■ Step1:模試直後(Day 0)「ホットレビュー」

模試終了後、答えを見る前に、自分の感触を問題用紙に書き込んでおきましょう。

  • 各問題について「A=確信あり」「B=迷った」「C=勘で答えた」の3段階で自己評価
  • 感覚が新鮮なうちに、どこで迷ったか、なぜそう思ったかを記録

■ Step2:翌日(Day 1)「ディープダイブ」

復習の本丸です。まとまった時間を確保して、以下を徹底的に行います。

  • 自己採点
  • 間違えた問題+「B」「C」評価だった問題の原因分析
  • 選択肢ごとの正誤理由を言語化することで、理解の精度を高める

■ Step3:1週間後(Day 7)「再確認レビュー」

エビングハウスの忘却曲線に基づき、1週間後に再確認することで知識を定着させます。

  • 復習ノートやマークした問題を再チェック
  • 重要論点や取りこぼしやすい箇所を重点的に解き直す

この3ステップを徹底すれば、模試の学習効果は何倍にも膨らみます。

5.2 ミスは5種類に分類せよ:原因特定で対策が変わる

模試で間違えた問題は、ただ解き直すだけでは意味がありません。「なぜ間違えたのか」を明確にすることが、次の成長につながります。

以下の5分類を使って、すべてのミスを診断してみましょう。

  1. 知識不足型
     → 条文・判例を見たことすらなかった
     → 対策:該当箇所をテキストで確認し、暗記カードや表を作成して定着を図る
  2. 知識の曖昧さ(混同)型
     → 知っている論点なのに、似た制度と混同して誤答
     → 対策:比較表や口頭説明によって違いを明確に区別
  3. 応用力不足型
     → 条文は知っていたが、事案への適用ができなかった
     → 対策:類題を集中的に演習し、具体事例への法適用を体得する
  4. 読み間違い・ケアレスミス型
     → 「〜でないもの」を「〜であるもの」と誤読、「すべて選べ」を見落とし等
     → 対策:否定語・条件語にマーク、スラッシュ読みなどの読み方を訓練
  5. 時間切れ型
     → 本当は解けたはずの問題にたどり着けなかった
     → 対策:模試の時間配分を見直し、演習でスピード感を養う

5.3 「まぐれ正解」にこそ、最大の落とし穴がある

模試の復習では、「正解した問題」の中に潜む危険にも目を向けなければなりません。

ホットレビューで「B(迷った)」「C(勘)」と評価したにもかかわらず正解した問題。それは、“まぐれ当たり”であり、本番では誤答につながる「時限爆弾」です。

このような問題こそ、間違えた問題と同様に、いやそれ以上に深く掘り下げて分析する必要があります。

  • なぜ正解だったのか?
  • 他の選択肢がなぜ誤りなのか?
  • 今後同じ論点が出ても、正しく答えられるか?

こうした掘り下げを通じて、運に頼らない「本物の得点力」が育ちます。

5.4 復習ノートで知識と分析を一元化せよ

模試復習の成果を最大限活用するには、分析結果や重要情報を“見える化”し、復習ノートとして蓄積していくことが効果的です。

■ 推奨する復習ノートの構成

  • 問題番号・科目・テーマ(例:問28/民法/代理)
  • 自分の選択肢と正解
  • ミスの分類(5.2のどのタイプか)
  • 核となる知識や条文の要旨(自分の言葉で要約)
  • 関連知識やリンク情報(テキストページ、過去問番号、類似論点など)
  • 次にすべきアクション(例:「無権代理と表見代理を比較表にする」)

■ テキストへの書き込みも有効

紙のノートだけでなく、使っている基本テキストの余白に復習情報を書き込む「一元化学習」もおすすめです。教材がそのままあなただけの“最強の攻略本”になります。

模試の復習は「面倒な作業」ではなく、「合格を引き寄せる知的な武器の開発」です。ノート1冊があなたの“得点源”となるよう、戦略的に育てていきましょう。

第6章 E判定からでも合格できる:逆転を可能にする戦略と思考法

模試で「E判定」を突きつけられると、多くの受験生は大きなショックを受けます。しかし、E判定は「不合格の宣告」ではありません。それはむしろ、合格への軌道修正を促してくれる“強烈な警告”であり、そこから立ち上がる者こそが本番で勝利をつかみます。

この章では、E判定を前向きな材料に変え、合格に至るまでの再構築プロセスを4つのステップに分けて解説します。

6.1 落ち込んでも大丈夫——ただし時間制限を設ける

模試でE判定を取ってしまったとき、「自分には無理かもしれない」と思うのは当然の反応です。悔しさや不安、自己否定感に襲われることもあるでしょう。

ただし、ここで重要なのは「感情に区切りをつける」ことです。

  • 「今日だけは落ち込んでもいい」と自分に許可を出す
  • そして翌朝には、冷静な分析フェーズに切り替える

このように、感情を引きずるのではなく、「一時的な感情処理」として時間を制限すれば、むしろE判定を前進のエネルギーに変えることができます。

6.2 E判定は“弱点の地図”:データが示すのはチャンスの場所

E判定は、“合格可能性ゼロ”を意味するものではありません。それは、現時点での弱点が可視化された「学習の地図」です。

■ ステップ1:損害のトリアージ(優先順位の明確化)

模試の成績表にある正答率データを活用し、

  • 正答率60%以上の問題で落としたもの
     → 基本知識の欠落を意味する“致命的な弱点”。最優先で修正すべき項目。
  • 正答率30%未満の問題で間違えたもの
     → いわゆる“捨て問”。今は深追いせず、後回しにする判断も重要。

■ ステップ2:パターンの特定

ミスが特定の科目に集中しているのか、それとも特定のスキル(例えば条文の読解・事案適用など)に偏っているのかを把握します。

そして、「5つのミスタイプ分析」(第5章 参照)を用いて、知識・思考力・技術面のどこに問題があるのかを具体的に洗い出しましょう。

6.3 弱点のタイプに応じて学習計画を再構築する

E判定を受けたあとにやるべきことは、感情的な反省ではなく構造的な再設計です。

【ケースA:基礎知識が全体的に不足している場合】

  • インプットに立ち返り、基本テキストや講義を再度見直す
  • 「広く浅く」ではなく、「重要科目を深く」に重点を置く

【ケースB:特定分野のみ弱い場合】

  • 該当論点に絞ってアウトプット学習(問題演習・過去問)を集中投入
  • 短期間で“ピンポイント補強”する意識を持つ

【ケースC:ケアレスミスや時間配分の失敗が多い場合】

  • 読解ミスや設問ミスを防ぐ読み方の習慣化(チェックマークやスラッシュ読み)
  • 模試で繰り返し時間配分シミュレーションを行い、最適な順番やペースを確立

「E判定=やり直し」ではありません。課題の“質”によって、やるべき“処方箋”が変わることを冷静に理解しましょう。

6.4 逆転合格は実在する:E判定からの復活ストーリー

実際に、多くの合格者がE判定からの逆転劇を経験しています。いくつかの実例をご紹介します。

  • 事例①:9月模試でE判定→10月に行政法を徹底強化し、記述で挽回して合格
     → 弱点科目に絞って重点強化し、得点源を確保
  • 事例②:直前期にE判定→模試の正答率60%超問題だけに集中→短期間で安定得点ゾーンへ
     → 伸びしろを“明確に定義し直す”ことで、効率的に逆転
  • 事例③:E判定後に完全復習型ノートを構築→模試を解くだけでなく“再設計”する意識で改善
     → 1回の模試を「10倍活かす」意識の持ち方が差を生む

これらの事例が示すとおり、模試でE判定を取ったかどうかは、合格・不合格の決定要因にはなりません。むしろ、そのあとの行動と戦略こそが合否を分けるのです。

あなたがいま目にしているE判定は、「あきらめろ」ではなく、「ここを変えれば合格できる」という合図です。だからこそ、恐れずに“正しく向き合う”ことが、逆転合格への最初の一歩になります。

第7章 独学か通信講座か?模試を最大限に活かすための学習環境戦略

模試を有効に活用するには、その周囲にある「学習環境」も極めて重要です。特に独学と通信講座では、模試の位置づけや活かし方に大きな違いが生まれます。

この章では、独学者が陥りやすい模試活用の落とし穴と、通信講座が提供する模試サポートの強みを比較しながら、あなたにとって最も効果的な環境選びを考察します。

7.1 独学で模試を活かしきれない主な要因とは?

独学で行政書士試験に挑戦することは決して不可能ではありません。しかし、模試の効果を最大限に引き出すという点では、独学にはいくつか構造的な課題があります。

■ 客観的な指標が得られにくい

市販の模試を解いても、それが全国的に見て良いのか悪いのかを判断する「ベンチマーク」がありません。結果、自己評価が甘くなったり、逆に必要以上に悲観的になったりしがちです。

■ 解説の深度に限界がある

市販模試の解説は、正解の選択肢とその理由は説明していても、「なぜ他の選択肢が不正解か」「出題者の意図は何か」といった深掘りには対応していません。したがって、表面的な理解に留まりやすくなります。

■ モチベーションと継続の難しさ

悪い判定結果を受けても、それを受け止める場所がないため、感情的に落ち込みやすく、立ち直りに時間がかかります。疑問点を解消する術もなく、学習が停滞するリスクがあります。

■ 時間の浪費リスク

本来、専門家が分析すべき「ミスの原因分析」「今後の対策立案」までを、すべて自力で行う必要があり、労力も時間も膨大になります。しかも、診断ミスがあれば逆効果にもなりかねません。

7.2 通信講座がもたらす模試活用の“加速装置”

一方、通信講座(予備校型含む)には、模試を効果的に学習に組み込むための“仕組み”が最初から整備されています。これは、単に模試を提供するだけではなく、模試の「活かし方」まで含めたサポートシステムです。

■ 高精度な個人成績分析

大手予備校の模試(LECやTACなど)では、偏差値・全国順位・問題ごとの正答率といった詳細データが自動で提供され、あなたの現在地と改善点が数値化されて一目で把握できます。

■ 専門講師による解説講義

例えばアガルートでは、6時間超の解説動画が模試に付属し、出題意図や選択肢の絞り方、頻出論点の応用まで体系的に解説されます。これは、独学では得られない“戦略的視点”を身につける大きな武器となります。

■ 質問対応とサポート体制

通信講座では、模試に関する疑問や復習中に生じた不明点を、講師やサポートスタッフに質問できる体制が整っており、フィードバックのループを閉じることが可能です。

■ 学習スケジュールのペースメーカー機能

模試の日程が講座カリキュラム内に組み込まれており、「受ける・復習する・対策を立て直す」という流れを自動的に作れるため、計画倒れになりにくくなります。

7.3 時間を浪費しないために:模試は“投資”であるという考え方

社会人や主婦(夫)の受験生にとって、最も貴重なリソースは「時間」です。通信講座や模試パックに費用をかけることは、単なる出費ではなく、「時間を短縮するための戦略的投資」と捉えるべきです。

■ 専門家による分析が“数時間〜数日分の労力”を代行

自分で何時間もかけて分析・計画修正するかわりに、講座のフィードバックを使えば数分〜数時間で次の行動に移れます。

■ 誤った判断による時間の浪費を防げる

自己診断ミスによって無駄な学習に時間を割いてしまうことを防ぎ、合格に必要な学習だけに集中できます。

■ 模試の復習効果が最大化される

動画解説や質問制度によって、同じ模試でも得られる知見の“深さ”がまったく違います。1回の模試が「10回分の演習に相当する学び」に変わります。

あなたの最も大切な資源である「時間」を守り、最大限に活かすために——模試の受け方、活かし方、環境の整え方こそが、合格戦略の中核です。模試を“費用”ではなく“時間短縮と合格可能性向上への投資”として考え、戦略的に学習を組み立てていきましょう。

おわりに:模試は“結果を示す紙”ではなく、“合格への羅針盤”

模試は、ただの「合格・不合格」の判定を下すための試験ではありません。

本質はむしろ逆であり——模試とは、あなたの学習の方向性を確認し、必要な軌道修正を行うための航海図のようなものです。

受験本番までに通るべきルートを照らし、嵐(弱点)を可視化し、どの港(得点源)を目指すべきかを教えてくれるツールです。

判定結果に一喜一憂するのではなく、その裏にある「データ」「傾向」「自分の行動パターン」こそを掘り下げてください。

行政書士試験は一発勝負ではなく、戦略と改善の積み重ねによって道が拓かれる試験です。

模試を通じて、自分の現在地と向かうべき方向を把握し、そこに必要な行動を積み重ねる——それこそが、逆転合格を現実にする鍵です。

模試を“評価の道具”ではなく、“戦略のコンパス”として活用する意識を持つことが、最短で合格へ向かうあなたの道しるべとなるでしょう。