はじめに
行政書士は、法律の専門家として多くの場面で活躍できる国家資格であり、その社会的意義の高さから毎年多くの受験者が挑戦しています。しかし、広範かつ専門的な試験範囲を前に、多くの初学者が「何から手をつけるべきか分からない」と迷い、学習のスタートでつまずいてしまうケースも少なくありません。
本記事では、そうした初学者の方が、最短で効率的に合格を目指すために踏み出すべき「最初の3ステップ」を体系的にご紹介します。
このステップは、実際に多くの合格者を輩出してきた大手予備校や実務家講師の知見をもとに構成されており、学習初期の不安を取り除き、合格へのルートを明確に描くための道しるべとなるはずです。
迷いの多い学習初期だからこそ、「何を」「どうやって」「いつまでに」進めるか――。この基本をしっかりと押さえることで、あなたの努力は確実に成果へと結びついていきます。
第1章:合格の突破口は「行政法」と「民法」から
1.1 なぜ行政法と民法が最優先なのか
行政書士試験の合格基準は、300点満点中180点以上という絶対評価です。この枠組みの中で最初に注目すべきは、科目ごとの配点構成です。
- 行政法:112点
- 民法:76点
この2科目だけで合計188点。実に合格基準点180点を超える配点が割り当てられており、試験全体に占めるウェイトの大きさは明らかです。
さらに、記述式問題(全60点)の出題内容もこの2科目に限られており、
- 行政法から1問(20点)
- 民法から2問(各20点)
という構成です。
つまり、択一式・記述式を問わず、この2科目を攻略することが合否を左右すると言っても過言ではありません。
LECやTACといった大手予備校も「行政法と民法を軸に据えるべき」と明言しており、最も配点が高く、かつ他科目の理解にもつながる「中核科目」であることは共通認識となっています。
1.2 初学者が陥りがちな落とし穴:憲法から始める非効率
受験生の中には、ニュースなどで馴染みがあり、身近に感じやすい「憲法」から学習を始める方も少なくありません。しかし、戦略的な視点から見ればこれは非効率な選択です。
憲法の配点は、択一5問+多肢選択式1問の合計28点と比較的低く、学習量に対して得点効率が高いとは言えません。
また、憲法は抽象的な条文が多く、初学者には理解しづらい概念も多く含まれています。結果として「わかりやすいようで進みにくい」科目であり、序盤から挫折感を抱く原因にもなりがちです。
一方、民法は契約や財産、権利・義務といった私法の基本構造を扱うため、法律の思考様式(リーガルマインド)を身につける上でも絶好の出発点となります。
伊藤塾をはじめとする複数の資格予備校は、法的思考の土台をつくる「民法→行政法」の順序で学ぶことを推奨しており、初期段階でこの順序を誤ると、その後の理解効率にも影響を及ぼします。
1.3 最重要2科目を攻略するための学習ステップ
行政法と民法を軸にした学習を成功させるには、以下の「2段階ステップ」が極めて効果的です。
ステップ1:まずは全体像を把握する(テキストの通読)
最初は、民法の基本テキストを細かく覚えようとせず、「小説を読む感覚」で一通り読み進めましょう。目的は暗記ではなく、全体構造をざっくりと掴むことです。
伊藤塾の講師陣も、「この段階では立ち止まらないこと」が重要だと述べており、完璧を求める必要はありません。
ステップ2:「ジグザグ方式」でインプットとアウトプットを並行
一通り通読したら、すぐに対応する過去問に取り組みます。これはアガルートなどが推奨する「ジグザグ方式」と呼ばれる学習法で、
- テキストの該当章を読む(インプット)
- →すぐに該当範囲の過去問を解く(アウトプット)
- →理解が曖昧な部分を再びテキストで確認(インプット)
という往復を繰り返します。
この方法により「読んだつもり」を防ぎ、知識が実際の問題でどう問われるかを体感できるようになります。
結果として、テキストを読む際も「出題者の視点」を意識できるようになり、学習の質が飛躍的に向上します。
第2章:迷わず進むための「一冊主義」戦略
2.1 基本テキストと過去問集は“厳選された1冊ずつ”で十分
行政書士試験の膨大な出題範囲を前に、多くの初学者が陥りがちなのが「不安から複数の教材に手を出してしまう」状態です。しかし、それは結果的にどの教材も中途半端に終わり、知識の定着を妨げる原因となります。
実際に多くの合格者が採用しているのが、信頼できる「基本テキスト」と「過去問題集」を1冊ずつに絞り、それを徹底的に使い込むという「一冊主義」です。
これは単なる節約術ではなく、学習の質を高めるための戦略です。
複数の教材に頼らず、1つの情報源を繰り返し活用することで、知識が体系的に整理され、試験本番でも安定したアウトプットが可能になります。
伊藤塾などの予備校も、一貫性ある学習を進めるためには「教材の厳選」が不可欠だと指摘しています。
2.2 教材の“浮気”は学習効率を下げる:情報は1冊に集約せよ
途中で別の教材に乗り換えると、表現の違いや記述の順序、用語の定義の違いによって混乱が生じ、一貫した理解が難しくなります。
これを防ぐために重要なのが、「情報の一元化」という発想です。
選んだ1冊のテキストを、自分の学習の“母艦”として使い倒します。
講義のメモ、過去問で得た知識、気づきなどを余白にどんどん書き込み、テキストそのものを「オリジナル参考書」に育てていくのです。
そうすれば、直前期に複数のノートや参考書を行ったり来たりすることなく、その1冊を見直すだけで全範囲を一気に復習できるようになります。
これは学習効率の向上だけでなく、試験直前の安心感にもつながります。
2.3 自分に合う“運命の一冊”を選ぶためのチェックポイント
「一冊主義」を貫くには、自分にとって最適な教材を選ぶことが大前提となります。以下のポイントを参考に、慎重に選定しましょう。
✔ 最新版を選ぶこと
行政書士試験は法改正の影響を受けやすい試験です。必ず、受験年度に対応した最新版の教材を購入してください。古い版を使うと、誤った知識で覚えてしまうリスクがあります。
✔ 自分との“相性”を最優先
書店で実際に複数のテキストを見比べ、自分が「読みやすい」「頭に入りやすい」と感じるものを選ぶのが最も重要です。構成・図解の有無・文字の大きさ・余白のバランスなど、感覚的な“しっくり感”が継続学習のカギとなります。
✔ 視覚的に理解しやすいものを
カラー刷りや図表が豊富な教材は、特に初学者にとって理解を助ける重要な要素です。複雑な法律関係も、視覚的に整理されていればスムーズに頭に入ります。
✔ 同一シリーズで揃える
テキストと過去問題集を、同じ出版社・同じシリーズで揃えることで、相互参照がしやすくなります。問題集の解説からすぐに該当テキストへ戻れる構造は、「ジグザグ学習法」をスムーズに進めるうえで極めて効果的です。
この章でお伝えした「一冊主義」は、時間と労力を無駄にしないための実践的な知恵です。教材選びで迷ったら、量より“信頼できる質”を軸に据える判断を心がけてください。
第3章:合格を引き寄せる学習スケジュールの立て方
3.1 試験日から逆算する計画設計の重要性
行政書士試験に合格するためには、がむしゃらに勉強を始めるだけでは不十分です。
成功する受験生に共通するのは、「試験日から逆算して戦略的に学習スケジュールを立てていること」です。
行政書士試験は毎年11月第2日曜日に実施されます。この“固定されたゴール”に向けて、残りの期間をどのように使うか――これを初期段階で明確にすることが、効率的な学習の土台になります。
月ごとの目標を定めることで、進捗を可視化でき、学習のペースを客観的に管理できるようになります。
また、小さな達成を積み重ねることでモチベーションを維持しやすくなり、途中で挫折するリスクを大幅に減らせます。
3.2 計画なしで進めると起こる3つの落とし穴
無計画に勉強を始めてしまうと、多くの初学者が以下のような問題に直面します。
① 試験日までに全範囲を終えられない
配点の高い行政法・民法を最後まで仕上げきれずに本番を迎えてしまうケースも少なくありません。全体像を見通さず学習を始めると、時間のかけ方に偏りが出てしまいがちです。
② 好きな科目ばかりに偏る
得意な科目に集中しすぎ、重要な苦手科目が手付かずになることも。行政書士試験では「足切り」制度もあるため、まんべんなく得点できるバランスも必要です。
③ 直前期にパニック状態になる
試験直前になってもインプットが終わっておらず、焦って新しい知識を詰め込もうとすると学習効率が大きく下がります。
本来は過去問演習や模試を通じて実戦力を高める時期に、不安のまま本番を迎えることになりかねません。
3.3 無理なく実践できるスケジュールの組み方
初学者でも継続しやすく、効果的に学習を進めるためのスケジューリング手法を、3段階に分けて解説します。
ステップ①:マクロ計画(年間を3つの時期に分ける)
学習期間全体(例:1月〜11月)を、次の3期に分けて構成します。
- 第1期:基礎固め期(1月〜5月)
各科目のテキストと過去問を1周し、全体像をつかむことが目標。完璧を目指さず「触れて慣れる」ことを重視します。 - 第2期:実力養成期(6月〜8月)
過去問演習を中心に、知識の定着とスピード強化を図ります。最も実力が伸びる重要な期間です。 - 第3期:直前期(9月〜11月)
模試やアウトプットに集中し、弱点補強と実戦対応力を仕上げます。この時期に新しい知識を増やすのは非効率です。
ステップ②:メソ計画(月単位でマイルストーンを設定)
各期ごとに、「この月までに◯◯を終える」といった目標を明文化します。
例:
- 3月末までに民法の基本書と過去問を1周
- 7月は行政法の過去問を2周目まで進める
目標は“量”ではなく“内容”をベースに設定すると明確化しやすくなります。
ステップ③:ミクロ計画(1週間単位で管理する)
日々の学習計画では、「時間」ではなく「ノルマ(課題ベース)」で区切ることが効果的です。
- ✗ 悪い例:「月曜日:行政法を2時間勉強」
- ○ 良い例:「月曜日:行政手続法のテキストP.30〜50と過去問10問を解く」
ノルマ方式は達成感が得られやすく、集中力と定着率の向上にもつながります。
ステップ④:お試し運用と定期的な見直し
最初の1週間は「試運転期間」として運用し、自分のペース感に合っているかを確認しましょう。
その後は、毎月末などにスケジュールの進捗を見直し、必要に応じて柔軟に修正します。
スケジュールは“守るもの”ではなく、“活かすもの”です。現実に合わせて調整することが、長期学習の継続に直結します。
効果的な学習計画は、努力を成果に変えるための地図です。
逆算思考と柔軟性を備えたスケジュールを持つことが、行政書士試験合格への確かな一歩となるでしょう。
結論:初学者を合格へ導く3つの“戦略的起点”
行政書士試験という高い壁を乗り越えるためには、最初の一歩で正しい方向を選ぶことが何より重要です。
本記事でご紹介した「3つの基本戦略」は、多くの合格者が実践してきた“王道”とも言える学習方針です。
- 戦略①:行政法・民法から学習を開始する
試験配点の中心であり、記述式問題にも直結する二大科目から始めることで、最短距離で合格点を狙えます。 - 戦略②:教材は“一冊主義”で繰り返す
複数の教材に手を広げるのではなく、信頼できるテキストと過去問集を1冊ずつに絞り、情報を一元化して深く使い込むことで知識が定着します。 - 戦略③:ゴールから逆算したスケジュールを組む
試験日を起点にした具体的かつ柔軟な計画を立てることで、学習の全体像を俯瞰し、無駄のない継続が可能になります。
この3つの戦略は、それぞれが単独で機能するだけでなく、互いに連動することで学習の質を大きく底上げします。
迷いや不安の多い初学者だからこそ、最初の選択が合否を分ける鍵となります。
最短で、そして確実に合格を目指すなら、ここから始めましょう。