はじめに
制度改正で何が変わる?──不安を解消し、学習に集中するために
行政書士試験へのチャレンジを考えている方、またはすでに受験勉強を進めている方にとって、2024年度(令和6年度)からの「制度改正」は見過ごせない大きなニュースです。
「試験制度が変わるって聞いたけど、どこがどう変わるのか…」
「“一般知識”が“基礎知識”に? 難しくなるのでは…」
「これまでの勉強は、もう通用しないのだろうか?」
そんな不安や疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。
制度の改正は、学習の方向性や優先順位を根本から見直す必要が出てくるため、慎重な情報収集と的確な対策が不可欠です。
本記事では、行政書士試験制度に精通した現役行政書士の視点から、総務省や行政書士試験研究センターの発表など信頼できる一次情報に基づき、今回の制度改正について徹底的に解説します。
この記事を読むことで、以下の点が明確になります。
- どこがどのように変わったのかという全体像
- 制度改正の背景にある「行政書士の使命」の再定義
- 特に重要な「基礎知識」科目の出題範囲と対策
- 「基準点(足切り)」への影響と合格戦略の見直し
- これからの学習に必要な具体的な行動指針
制度改正を単なるリスクではなく、自分の強みに変えるチャンスとして捉えましょう。正しく理解し、的確に準備すれば、むしろ他の受験生に差をつける好機になります。
それでは、制度改正の全体像から順に、丁寧に読み解いていきましょう。
第1章 行政書士試験の制度改正──全体像を正しく把握しよう
最新の試験制度を理解することは、効果的な学習戦略を立てるうえでの第一歩です。この章では、2024年度(令和6年度)から導入される新制度について、旧制度との違いや改正の方向性を整理し、「何がどのように変わったのか」を明確に把握していきましょう。
1.1 どこがどう変わった?──従来制度との違いを整理する
今回の制度改正で最も大きなポイントは、「一般知識等科目」が「基礎知識科目」へと名称変更され、出題内容が再編された点にあります。
一方で、「法令等科目(憲法・民法・行政法など)」については、出題形式・配点・試験時間ともに従来通りで、制度上の変更はありません。
つまり、「基礎知識」科目に焦点を当てることが、今回の改正への理解と対策のカギとなるのです。
1.2 「一般知識」から「基礎知識」へ──名称変更に込められた意図とは
従来の「一般知識等」は、政治・経済・社会などの教養的な知識も広く出題される傾向にありました。しかし、新制度ではこれらがより整理され、名称も「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」へと変更されました。
この変更には、「行政書士として実務上必要な知識を重視する」という試験方針の転換が込められています。
「関連する」知識から「必要な」知識へ──単なる一般教養から、実務に不可欠な法的素養へと、評価の基準が変わったのです。
1.3 変更点を一目で把握!──新旧制度の比較一覧
制度改正のポイントを視覚的に整理するために、新旧の出題科目と配点の比較表を確認しておきましょう。
区分 | 旧制度(〜2023年度) | 新制度(2024年度〜) |
---|---|---|
科目名 | 一般知識等 | 基礎知識 |
主な出題分野 | 政治・経済・社会/情報通信・個人情報保護/文章理解 | 一般知識/行政書士法等関連法令(新設)/情報通信・個人情報保護/文章理解 |
出題数・配点 | 14問・56点(変更なし) | 14問・56点(変更なし) |
この比較から分かるように、試験の構造(出題数や配点)に変化はありませんが、問われる内容がより実務寄りに再編されていることが最大のポイントです。
この改正の意図や背景については、次章で詳しく掘り下げていきます。
第2章 なぜ今、行政書士試験制度は見直されたのか?
単なる試験形式の変更ではなく、制度改正の背後には明確な社会的意図と法的根拠があります。この章では、行政書士法の改正や職業像の変化を踏まえ、なぜ今、試験内容の見直しが行われたのかを解説します。
2.1 行政書士法の改正と「使命」の明文化
近年、行政書士法が改正され、「行政書士の使命」が明文化されました。これにより、行政書士は単なる書類作成の代行者ではなく、「国民の権利利益の実現に資すること」を使命とする専門職であることが、法律上も明確に位置づけられました。
この使命の明文化は、行政書士が担うべき社会的役割が拡大・高度化していることを示しています。制度改正は、この法改正の流れに沿って、「使命を果たすために必要な知識」を試験で評価する方向へと転換するために実施されたものなのです。
2.2 現場で求められる専門性に対応するために
行政手続は年々複雑化し、多様な法令や制度にまたがるものが増加しています。加えて、申請支援、給付金対応、在留資格、電子申請など、行政書士が直面する業務領域も拡大の一途をたどっています。
こうした現場のニーズに応えるためには、条文の理解はもちろん、実務に即した法律知識や制度理解が不可欠です。今回の制度改正は、こうした「現場対応力」のある行政書士を育成するためのものでもあります。
2.3 試験内容の見直しは、時代の要請だった
従来の「一般知識等」では、政治・経済・社会といった広範な分野が出題されており、実務との関連性が薄いという批判も少なくありませんでした。
今回の改正では、「業務に関連する知識」から「業務に必要な基礎知識」へと、明確に出題の方針が変わりました。
これは、「教養試験」から「実務試験」への転換であり、行政書士の職責に即した形で試験制度がアップデートされたことを意味します。
つまり、試験制度の見直しは、偶発的な措置ではなく、行政書士法の改正を契機とした、必然的かつ構造的な改革なのです。
第3章 「基礎知識」科目の全容を読み解く──出題範囲と対策の焦点
新たに導入された「基礎知識」科目は、出題内容の再編がなされた重要な領域です。この章では、「政治・経済・社会」の扱いの変化、新設された「行政書士法等」、そして引き続き重要とされる分野について、具体的な出題傾向を丁寧に分析していきます。
3.1 政治・経済・社会は本当に消えたのか?──新「一般知識」の実態
これまで「一般知識等科目」に含まれていた「政治・経済・社会」は、2024年度以降の試験では、科目名としては明記されなくなりました。これにより、「出題されなくなったのか?」という疑問が生じるのも無理はありません。
しかし、総務省の発表によれば、これらの分野は「一般知識」という名称のもと、引き続き出題される可能性があるとされています。とはいえ、かつてのように均等に出題されることはなく、重要度や出題頻度は相対的に下がると見られています。
これを踏まえ、受験戦略としては「政治・経済・社会」への深入りは避け、社会保障制度や地方自治など、行政書士業務と接点のあるテーマに絞って学習することが賢明です。
3.2 最大の注目点──新設「行政書士法等」の出題内容を読み解く
今回の制度改正における最も重要な変更が、新たに加わった「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」(以下「行政書士法等」)の出題です。
この科目では、次のような法令が出題対象として明記・想定されています:
- 行政書士法:業務範囲・義務・懲戒・法人制度などを定めた基幹法令
- 戸籍法:相続・離婚・養子縁組等における身分証明書類の理解に不可欠
- 住民基本台帳法:住民票の写しや転居に伴う各種申請の基礎知識に直結
出題形式としては、「条文の知識を直接問う」タイプが中心になると予測されており、行政書士法の条文中に規定されている義務・罰則などを正確に理解しているかが問われます。
特に注目すべきは、これらの法令は2005年度以前の行政書士試験ではすでに出題実績がある点です。古い過去問を活用することで、出題形式や論点の傾向をつかむことが可能です。
3.3 変わらず重要──「情報通信・個人情報保護」と「文章理解」
制度改正後も変更のない出題分野として、「情報通信・個人情報保護」と「文章理解」があります。これらの分野は例年通り出題されることが明示されており、確実に得点源とすべき領域です。
情報通信・個人情報保護
- IT用語(SSL・ファイアウォールなど)や基本的なセキュリティ知識
- 個人情報保護法、行政手続オンライン化に関する法令
- デジタル庁関連の最新制度など
特に、条文に即した出題が多く、知識の積み重ねで確実に得点できる分野です。
文章理解
- 毎年3問出題される読解問題
- 法律知識を要さず、純粋な読解力・国語力で得点可能
- 足切り回避に直結するため、全問正解を狙いたい分野
これら2つの分野は、制度がどう変わろうとも「合格ライン突破のために最優先で対策すべき」内容であることに変わりはありません。
第4章 合否を左右する「基準点(足切り)」制度を正しく理解する
行政書士試験の合格基準は単純な総得点だけではありません。「基礎知識」科目には、いわゆる“足切り”と呼ばれる基準点制度があり、たとえ他科目で高得点を取っていても、このラインを下回ると不合格になります。
この章では、受験生が特に気にすべきこの制度の仕組みと、突破のために必要な戦略を具体的に解説します。
4.1 足切り制度は継続──突破のために必要な得点ラインとは?
制度改正後の「基礎知識」科目においても、従来通り、基準点(足切り)制度は適用されます。
行政書士試験研究センターが公表している合格基準によれば、「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」の得点が満点の40%以上であることが、合格条件の一つとして明記されています。
この条件を具体的な数値に置き換えると、次のようになります:
- 出題数:14問
- 各問題の配点:4点
- 満点:56点
- 基準点(40%):22.4点 → 小数点以下は切り上げて 24点
つまり、「最低でも6問(6×4点=24点)を正解しないと、その時点で不合格が確定する」極めて重要な科目です。
他の科目でどれだけ得点していても、この足切りを突破できなければ合格証書を手にすることはできません。
4.2 合格戦略の要は「6問死守」──確実にクリアするための優先順位とは
「基礎知識」科目の目標は満点を取ることではなく、足切りラインを確実に超えるための6問をどう確保するかにあります。以下のように、出題分野ごとに優先順位をつけた対策が効果的です。
【最優先】文章理解(3問):
- 法律知識を必要とせず、読解力で得点可能。
- 毎年安定して出題されるため、確実に3問正解を狙いたい得点源。
【第二優先】行政書士法等(2〜3問):
- 出題対象が限定的であり、条文ベースの知識で対応可能。
- しっかり学習すれば得点しやすい分野。
【第三優先】情報通信・個人情報保護(1〜2問):
- 頻出用語や法律が明確で、事前対策が立てやすい。
- 苦手意識のある方も多いが、基本知識の習得で安定した得点が可能。
【第四優先】一般知識(0〜1問):
- 出題範囲が広く、内容も年によってばらつきがある。
- 深追いせず、時事問題の基本だけを押さえ、拾えたらラッキーと割り切る。
この戦略により、6問(=24点)を確保することは十分に現実的です。
「基礎知識」は“捨て科目”ではなく、戦略的に得点を積み上げるべき“合格の関門”であることを強く意識しましょう。
第5章 試験は本当に難しくなったのか?──制度改正の影響を冷静に分析
制度が変わると、「難易度が上がるのでは?」と不安に思う受験生も多いでしょう。しかし実際には、今回の制度改正は単なる「難化」ではなく、「問われ方の質」が変わったと捉えるべきものです。
この章では、出題傾向の変化を通じて、どのような力が求められるようになったのかを読み解いていきます。
5.1 「難化」ではなく「質の変化」──その本質的な意味とは
一見すると、「新しい科目が増えた=難易度が上がった」と思いがちですが、制度改正の本質はそこにはありません。
多くの専門家が指摘しているのは、「予測困難な知識の出題が減り、対策しやすい知識が増えた」という点です。
旧制度における難しさ
- 「政治・経済・社会」では、時事問題や国際情勢などの出題が多く、学習範囲が広すぎて対策が困難でした。
- いくら学習しても、見たことのないテーマが出題されるリスクが常にありました。
新制度の難しさ
- 「行政書士法等」による新設出題はあるものの、対象となる法令は限定的であり、条文に基づく知識を着実に学習すれば得点できる内容です。
- つまり、「努力が点数につながりやすい出題形式」へと移行したのです。
このように、不確実性が減り、対策可能性が高まったという意味では、真面目に取り組む受験生にとってはむしろ歓迎すべき変更だといえるでしょう。
5.2 出題傾向は「努力が報われる」方向へ
今回の制度改正を通じて、行政書士試験は「再現性のある学習成果」が評価される試験へと変化しつつあります。
つまり、無限に広がる知識を漠然と追いかけるのではなく、「ここまでやれば合格ラインに届く」という到達点が見えやすくなったのです。
この出題傾向の変化には、次のようなメリットがあります:
- 条文知識を中心に学習できるため、学習の方向性が明確になる
- 対策可能な分野が増え、学習の投資対効果が高まる
- 「未知の問題に備える」より、「問われるべき知識を着実に積み上げる」戦略が有効になる
つまり、制度改正は、一発逆転ではなく、積み重ねが物を言う試験へと進化したと言えるのです。
これまで「何が出るか分からない」ことに悩まされていた受験生にとって、今回の改正は、自らの努力を信じて合格を目指すための、強力な後押しとなるでしょう。
第6章 【実践戦略】制度改正に対応するための効果的な学習法
新試験制度において合格を目指すには、「何を」「どのように」学ぶかがこれまで以上に重要です。この章では、制度改正のポイントを押さえたうえで、具体的かつ実行可能な学習戦略を提示します。
6.1 まずは最新の教材に切り替えよう──古いテキストは通用しない
令和6年度(2024年度)以降の試験では、「行政書士法等」をはじめとする新たな出題内容が追加されています。そのため、制度改正前のテキストや問題集では、十分な対策ができません。
特に以下の点を確認してください:
- テキストや過去問集が「2024年度以降対応版」であるか
- 「行政書士法」や「戸籍法」「住民基本台帳法」などの条文解説が含まれているか
- 出題傾向の変化に対応した解説がされているか
古い教材を使い続けるのは、地図のない登山に挑むようなもの。最新の教材で、制度改正に完全対応した学習環境を整えることが第一歩です。
6.2 「行政書士法等」はどう対策する?──条文知識+過去問の活用がカギ
「行政書士法等」は、試験の中でも特に実務に直結する重要科目です。次の3ステップで対策を進めましょう。
ステップ1:条文の素読と構造理解
まずは「行政書士法」「戸籍法」「住民基本台帳法」の条文を通読し、重要な規定の構造をつかみましょう。
特に頻出が予想されるのは以下の項目です:
- 行政書士法:目的・定義・義務・懲戒・報酬など
- 戸籍法:届出と記載事項、戸籍謄抄本の交付要件
- 住民基本台帳法:記録事項、証明書の交付、転出入の手続きなど
ステップ2:2005年度以前の過去問を分析
この分野は、かつての試験科目でもあり、平成17年度以前の過去問が非常に有効です。出題傾向の把握に加え、どのような形式で問われるのかを具体的に知ることができます。
ステップ3:新試験対応の問題集・講座を活用
独学に不安がある方は、市販の新制度対応問題集や、伊藤塾・アガルート・LECなどの通信講座を活用すると良いでしょう。正確な条文理解と演習の両立が、合格への近道です。
6.3 「6問死守」で足切り突破──分野別の優先順位と得点戦略
「基礎知識」科目では、14問中6問(24点)以上の正解が合格の前提条件です。この6問をどう確保するかが最大の戦略ポイントとなります。
【最優先】文章理解(最大3問)
- 法律知識が不要
- 正答率が安定しやすく、短期間で対策が可能
【第二優先】行政書士法等(2〜3問)
- 出題範囲が明確
- 条文理解を重視する学習で得点可能
【第三優先】情報通信・個人情報保護(1〜2問)
- 頻出用語や制度を中心に対策
- IT関連法に苦手意識のある方は、基本知識の習得に絞る
【最低優先】一般知識(0〜1問)
- 出題傾向が読みづらいため深入りは禁物
- 時事ネタの基礎的な理解だけで十分
このように得点しやすい分野から逆算し、最低6問を確保する戦略が、もっとも効率的かつ現実的なアプローチです。
6.4 独学派におすすめの市販教材(2025年対応版)
独学で合格を目指す方にとって、市販教材の選定は非常に重要です。以下は、制度改正に対応した2025年対応版の主要シリーズです。
- LEC「出る順行政書士」シリーズ
→ 初学者から中上級者まで幅広く対応。基本書・一問一答・ウォーク問とラインナップも豊富。 - TAC出版「みんなが欲しかった!」シリーズ
→ フルカラーの図解が多く、視覚的に理解しやすい構成。初学者に特に人気。 - 伊藤塾「うかる!行政書士」シリーズ
→ 法律に強みを持つ伊藤塾ならではの深い解説。条文理解を重視する方におすすめ。 - 早稲田経営出版「合格革命」シリーズ
→ 特に「肢別過去問集(アシベツ)」が有名。アウトプット学習に適しており、知識の定着に効果的。
自分の学習スタイルに合ったシリーズを選び、「テキスト → 問題演習 →復習」を繰り返すことが、合格への王道です。
まとめ
制度改正を恐れず、合格への一歩を踏み出すために
2024年度(令和6年度)からの行政書士試験制度改正は、多くの受験生にとって不安要素となりうる大きな変化です。しかし、その中身を正しく理解すれば、むしろこの改正は「チャンス」に転化できる可能性を秘めています。
今回の改正の要点を振り返ると、以下の点が挙げられます:
- 一般知識等科目が「基礎知識」へと再編され、より実務重視の内容へ
- 新設された「行政書士法等」科目では、業務に不可欠な法令知識が出題される
- 出題数や配点、試験時間は変更なし。ただし「足切り(基準点)」制度は維持
- 試験全体は「予測困難な教養型」から「対策可能な実務型」へと転換
- 真面目に学習する受験生が報われる構造へと進化
制度改正に対して構えるのではなく、「出題範囲が明確になった分、学習効率を高めやすい」と捉える姿勢が重要です。
新たな試験制度は、行政書士として求められる社会的使命や専門性に即した、現代的かつ実践的な設計へと変わっています。つまり、合格を目指すことそのものが、行政書士としての力を育てるプロセスになっているのです。
変化を恐れるのではなく、変化の本質を理解し、確かな準備をもって挑戦すること──それこそが、令和の試験制度を突破する鍵です。
あなたの努力は、きっと新制度の中で確かな成果に結びつきます。自信を持って、次の一歩を踏み出してください。