行政書士試験の難易度はどれくらい?──数字から見えてくる本当の姿
「行政書士試験は難しい」とよく言われますが、その“難しさ”とは一体何を意味するのでしょうか。合格率だけを見て「10人に1人しか受からない」と感じるかもしれませんが、実はその背景には、制度上の仕組みや受験者層の特性など、さまざまな要素が絡み合っています。
ここでは、試験の難易度をより客観的かつ正確に理解するために、まずは過去10年間の合格率や受験者数などの推移データをもとに、行政書士試験の実態を冷静に分析していきます。
数字をひもとくことで見えてくるのは、「ただ難しい」では片づけられない、この試験特有の構造的な難しさと、それにどう立ち向かうべきかという戦略的視点です。
1. 行政書士試験の難易度をデータから読み解く
1.1. 合格率10%前後に見る過去10年の傾向
行政書士試験の難しさを正しく理解するには、まず客観的なデータに目を向けることが不可欠です。ここでは、一般財団法人行政書士試験研究センターが公表する過去10年間(平成27年度〜令和6年度)の受験者数や合格率の推移をもとに、試験の実態に迫ります。
年度 | 受験申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 受験率 |
---|---|---|---|---|---|
令和6年度 | 59,832人 | 47,785人 | 6,165人 | 12.90% | 79.87% |
令和5年度 | 59,460人 | 46,991人 | 6,571人 | 13.98% | 79.03% |
令和4年度 | 60,479人 | 47,850人 | 5,802人 | 12.13% | 79.12% |
令和3年度 | 61,869人 | 47,870人 | 5,353人 | 11.18% | 77.37% |
令和2年度 | 54,847人 | 41,681人 | 4,470人 | 10.72% | 76.00% |
令和元年度 | 52,386人 | 39,821人 | 4,571人 | 11.48% | 76.01% |
平成30年度 | 50,926人 | 39,105人 | 4,968人 | 12.70% | 76.79% |
平成29年度 | 52,214人 | 40,449人 | 6,360人 | 15.72% | 77.47% |
平成28年度 | 53,456人 | 41,053人 | 4,084人 | 9.95% | 76.80% |
平成27年度 | 56,965人 | 44,366人 | 5,820人 | 13.12% | 77.88% |
(出典:行政書士試験研究センター公表資料)
このデータから最も注目すべき点は、「合格率がほぼ10%〜15%の間で安定している」ということです。年によっては令和5年度の13.98%や平成29年度の15.72%のようにやや高めの数字も見られる一方、平成28年度のように10%を下回るケースもあります。
とはいえ、長期的に見れば「10人に1人が合格する試験」と言えるほどの安定感があります。この合格率の安定性こそが、行政書士試験が持つ“戦略的対策を必要とする国家試験”としての難易度を象徴しているのです。
また、表中の「受験率(=申込者に対する実際の受験者の割合)」を見ると、どの年度も約76~80%で推移しており、受験申込をしても当日受験しない人が常に約2割存在していることもわかります。このような「棄権層」の存在も、行政書士試験の合格率に影響を及ぼすひとつの要素となっています。
1.2. 「申込んだけど受けない人が2割」──棄権率が意味するもの
合格率の数字を見るときに、もう一つ注目すべきポイントがあります。それは、「申込者」と「実際の受験者」とのあいだに生じるギャップ、つまり「棄権率」の存在です。
行政書士試験は、誰でも受験できる“受験資格不要”の国家試験であるため、「とりあえず申し込んでみよう」というライト層の参加が一定数存在します。その結果、毎年おおよそ20%前後の申込者が試験当日に姿を現さない、という現象が起きています。
たとえば、令和6年度の試験では59,832人が申し込みましたが、実際に試験を受けたのは47,785人。およそ12,000人、率にして約20.1%が受験を棄権しているのです。
これは、「合格率10%」という数字を鵜呑みにすべきでない理由のひとつでもあります。なぜなら、合格率は「受験した人」を母数にして算出されますが、その中にも準備が不十分な人や“記念受験”のような層が含まれている可能性が高いからです。
つまり、本気で合格を狙ってしっかり準備してきた受験生の「実質的な合格率」は、公式の数字よりも高い可能性があるということです。
1.3. 合格ラインは180点。でも“落とし穴”がある──絶対評価と「足切り基準」の仕組み
行政書士試験は、他の受験者との相対的な順位ではなく、あらかじめ定められた得点基準を満たせば合格できる「絶対評価方式」を採用しています。
合格のためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります:
- 法令等科目(244点満点)で122点以上を得点(50%以上)
- 一般知識等科目(56点満点)で24点以上を得点(およそ43%以上)
- 全体の合計点で300点中180点以上(60%以上)を得点
一見シンプルに思えるこの制度ですが、実は非常に厳しい側面も持っています。それがいわゆる「足切り(基準点)」の存在です。
たとえば、法令等科目で満点近くを取っていたとしても、一般知識等科目で24点に届かなければ即不合格となります。つまり、どれか1つでも基準を下回った時点で、他の点数がいくら高くても合格にはならないのです。
特に多くの受験生がつまずきやすいのが「一般知識の足切り」です。法令科目に全力投球するあまり、一般知識の対策を後回しにした結果、不合格となってしまう例は後を絶ちません。
この制度が示すのは、「特定の分野だけできればいい」わけではないということ。法令と教養の両面にバランスよく取り組むことが、行政書士試験に合格するための大前提なのです。
2. なぜ合格率は10%前後で安定しているのか──構造的なカラクリを読み解く
2.1. 受験者層の幅広さが平均値をゆがめている
行政書士試験は、日本国内の国家資格の中でも特に門戸が広い試験です。年齢、学歴、職業、国籍に一切制限がなく、誰でも受験することができます。そのため、受験者層は非常に多様で、統計データに大きな影響を与えています。
たとえば、令和5年度の合格者には最年少13歳から最年長81歳までが含まれており、学生、社会人、主婦、定年後のセカンドキャリア層まで、背景は実にさまざまです。近年は特に40代〜60代の社会人層の比率が高まりつつあり、「今の仕事に活かしたい」「将来の独立開業に備えたい」という実務志向の受験者も増加しています。
しかし、こうした多様性の中には、法律の学習経験がない初学者や、準備が不十分なまま試験に臨む“記念受験層”も一定数含まれています。
つまり、合格率10%という数字は、「すべての受験者をひとまとめにした平均値」に過ぎず、真剣に学習に取り組んでいる層だけを抽出した“実質的な合格率”とは一致しません。
実際には、十分な準備と戦略をもって臨む受験者にとって、合格できる可能性は数字以上に高いと考えられます。
2.2. 絶対評価のはずなのに、合格率が毎年ほぼ一定な理由
行政書士試験は「300点満点中180点以上で合格」という、明快な絶対評価制度を採用しています。相対評価(上位何%が合格)ではないため、本来ならば問題が易しければ合格率は上がり、難しければ下がる──というのが自然なはずです。
ところが現実には、合格率はほぼ毎年10%〜15%の間に収まっています。この“変わらない合格率”こそが、行政書士試験の構造的な特徴であり、実質的には「絶対評価の皮をかぶった相対評価」といえる運用がなされている可能性があります。
多くの資格予備校や受験指導者は、試験実施機関が毎年の問題の難易度を意図的に調整していると指摘しています。たとえば、
- 正答率が極端に低くなるように設計された「捨て問」
- 紛らわしい選択肢を含むひっかけ問題
などを一定数配置することで、全体の平均点がある程度コントロールされ、結果的に180点を超える受験者が自然と10%前後に収まるようになっている、という見方です。
このような仕組みは、資格としての「価値」や「希少性」を保つためのゲートキーピング機能ともいえます。
そのため受験生としては、「180点を取ればいい」と単純に捉えるのではなく、
- 確実に得点できる分野で180点を上回る
- 難化する年度も想定し、余裕を持った得点計画を立てる
といった戦略的な準備が欠かせません。
2.3. 他の士業資格と比べて行政書士はどれくらい難しいのか?
行政書士試験の難易度を客観的に理解するためには、他の主要な国家資格と比較してみることが有効です。特に、同じく法律知識を問う「士業」資格と比べることで、行政書士試験の立ち位置がより明確になります。
資格名 | 評価方式 | 合格率の目安 | 必要な学習時間(目安) |
---|---|---|---|
行政書士 | 絶対評価(足切りあり) | 約10〜15% | 約600〜1,000時間 |
司法書士 | 相対評価 | 約3〜5% | 約3,000時間 |
社会保険労務士 | 絶対評価(科目ごとの足切りあり) | 約5〜7% | 約1,000時間 |
宅地建物取引士 | 相対評価(合格点が変動) | 約15〜17% | 約300〜400時間 |
(※合格率・学習時間は各種資格予備校のデータをもとに編集)
■ 司法書士との比較
司法書士試験は法律系国家資格の中でも最難関のひとつであり、学習時間は行政書士の約3倍、合格率も一桁台と非常に狭き門です。出題内容も深く広く、上位数パーセントのみが合格する相対評価制度であることから、「登竜門」というより「頂上決戦」といえる試験です。
■ 社会保険労務士(社労士)との比較
社労士試験も行政書士よりやや難易度が高いとされます。特に科目ごとの「足切り基準」が厳しく、総得点が高くても一部科目の点数が足りなければ即不合格という制度が、合格を難しくしています。暗記量も膨大で、労働法・社会保険分野に対する体系的な理解が求められます。
■ 宅地建物取引士(宅建士)との比較
宅建士は不動産業界で必須とされる国家資格で、受験者数も非常に多く、合格率は行政書士よりやや高めです。学習時間も短く、試験範囲も比較的狭いため、行政書士と比べると“挑戦しやすい資格”といえるでしょう。ただし、法律初学者にとっては宅建が“最初のステップ”として有効であり、その上位互換として行政書士を目指すケースも多くあります。
◯ 行政書士試験の位置づけ
以上の比較からわかる通り、行政書士試験は「司法書士ほどの超難関ではないが、宅建士よりは明らかに難しく、社労士と同程度の難易度」といった中堅〜難関レベルの国家資格に位置づけられます。
法律初学者が初めて本格的に取り組む国家資格としての挑戦にふさわしく、独立開業や副業、キャリアアップの手段としても高い実用性と将来性を持った資格です。
「誰でも受けられる試験」ではありますが、「誰でも簡単に受かる試験」ではない──というのが、行政書士試験の本質と言えるでしょう。
3. 合格を阻む「本当の壁」とは?
3.1. 圧倒的な出題範囲──法令科目の広さと“戦略的優先順位”の重要性
行政書士試験において、最も学習負担が重く、かつ合否を左右する最大の要素が「法令等科目」です。この分野は、いわば“試験の本丸”であり、配点・出題数ともに最も比重が高く設定されています。
試験科目は大きく「法令等科目」と「一般知識等科目」に分かれますが、そのうち法令等科目だけで全体の約8割以上(244点/300点満点)を占めており、ここを攻略せずに合格はあり得ません。
■ 配点と出題数から見る優先度マップ
科目区分 | 科目名 | 問題数 | 配点 | 全体比率 | 優先度 |
---|---|---|---|---|---|
法令等科目 | 行政法 | 択一19問+多肢3問+記述1問 | 112点 | 約37% | ★★★★☆ |
民法 | 択一9問+記述2問 | 76点 | 約25% | ★★★★☆ | |
憲法 | 択一5問+多肢1問 | 28点 | 約9% | ★★★☆☆ | |
商法・会社法 | 択一5問 | 20点 | 約6% | ★★☆☆☆ | |
基礎法学 | 択一2問 | 8点 | 約2% | ★☆☆☆☆ | |
法令計 | ― | 全46問 | 244点 | 約81% | ― |
一般知識等科目 | 政治・経済・社会ほか | 択一14問 | 56点 | 約19% | 足切り注意 |
(※出題構成や配点は年度により若干の変動あり)
■ 最重要科目:「行政法」と「民法」は絶対に落とせない
行政書士試験で合格を目指すなら、まず最優先で取り組むべきは「行政法」と「民法」の2科目です。この2科目だけで180点中の約6割を占め、かつ記述式問題もここから出題されます。
- 行政法(配点:112点)は、試験全体の中で最大の配点を持ち、「行政手続法」「行政不服審査法」「行政事件訴訟法」「地方自治法」などの条文知識と判例の理解が問われます。
- 民法(配点:76点)も、物権・債権・相続など広範な範囲をカバーしており、論点の整理と条文の活用力が問われます。
この2科目で安定して得点できるようになることが、合格の“最短ルート”であり、“最重要課題”といえるでしょう。
■ 中優先科目:「憲法」は行政法の土台
憲法は出題数こそ多くありませんが、行政法の理解に直結する重要な基礎知識です。人権や統治機構に関する判例知識をしっかり押さえておくことで、行政法の応用力にもつながります。優先度は“中”ながらも、バランスよく学んでおきたい分野です。
■ 低優先科目:商法・基礎法学は“捨てすぎ注意”で効率重視
- 商法・会社法(20点)は出題範囲が広く、学習コストに対して配点が低いため、“高効率学習”の観点からは最低限の対策に留めるのが賢明です。頻出テーマ(会社設立・機関設計など)を中心に対策し、2〜3問正解を狙う程度の戦略で十分です。
- 基礎法学(8点)は出題意図が読みづらく、深入りしてもリターンが少ないため、「1問当たればラッキー」くらいの気持ちで臨む方が得策です。
◯ 結論:時間と労力は「行政法×民法」に集中せよ
限られた学習時間をどう配分するか──これは社会人受験生にとって特に重要な問題です。配点と出題傾向を見れば、「行政法」と「民法」の2本柱に重点を置くことが、合格戦略の中核であることは明白です。
一方で、他の科目を“捨てる”のではなく、「どの程度深くやるか」を見極めることで、時間対効果の高い学習が可能になります。これは、知識の問題というより、受験戦略の問題なのです。
3.2. 配点60点、試験の命運を分ける──記述式問題のリアルな対策法
行政書士試験では、わずか3問で全体の20%(60点)もの配点を占める「記述式問題」が登場します。内訳は、行政法から1問、民法から2問です。択一式に比べて出題数は少ないものの、その影響力は非常に大きく、合否を左右する“勝負どころ”と言えるでしょう。
■ 採点の「ブラックボックス性」と部分点の存在
記述式問題は、選択肢の中から答える択一式とは違い、受験生自身が文章で解答を構成する必要があります。しかも、採点基準は公表されておらず、何が「満点」「部分点」「無得点」とされるのかはブラックボックスです。
とはいえ、各種予備校や合格者の体験談から見えてくる共通点があります。それは、
- 完全な模範解答でなくてもよい
- 法律用語(キーワード)を使って論点を的確に指摘すれば、部分点は狙える
ということです。つまり、白紙で出すのではなく、何かしら書く姿勢が非常に重要になります。
■ 現実的な目標は「40点」
60点満点を狙うのは非現実的です。多くの予備校では「記述式は40点前後が合格ライン」とされており、満点を目指すのではなく、取りこぼさずに加点される答案を書くことが求められます。
■ そもそも採点すらされないケースも?
一部の予備校では、「択一式+多肢選択式の得点が基準点を大きく下回っている場合、記述式は採点されない可能性がある」とも指摘されています。つまり、いくら記述式に自信があっても、択一の得点が足りなければ“勝負の土俵にすら立てない”ということです。
◯ 対策のポイントまとめ
- キーワードを使った論点整理を日頃から訓練
- 部分点狙いでも「空欄にはしない」
- 記述対策ばかりに偏らず、まずは択一式で得点基盤を確保する
3.3. 「一般知識で落ちる」の落とし穴──足切り回避の戦略とは?
行政書士試験の受験生にとって、見落としがちな最大のリスクが「一般知識等科目の足切り」です。
この科目は、以下の3つの分野から出題されます:
- 政治・経済・社会(時事含む)
- 情報通信・個人情報保護
- 文章理解(読解問題)
配点は全体の56点ですが、24点(14問中6問正解)未満だと即不合格。たとえ他の科目で高得点を取っていても、ここで足切りになると全てが無効になります。
■ 戦略的配点マネジメントが合格のカギ
この科目で重要なのは、「捨てる」のではなく「選んで攻略する」という姿勢です。以下に効率的なアプローチをまとめます:
- 文章理解(3問/配点12点)
→ 過去問の演習が最も効果的。国語力が問われるため、努力が得点に直結しやすい。ここで満点を狙う。 - 情報通信・個人情報保護(2〜3問)
→ 出題範囲が限定的。個人情報保護法やIT関連用語を中心に対策すれば比較的安定して点が取れる。 - 政治・経済・社会(8問前後)
→ 時事問題や幅広い教養を問うため、コスパが悪い。深入りしすぎず、過去問から頻出テーマの基本だけ押さえる。
◯ 結論:確実に“6問以上”を取れる形を作る
一般知識で落ちるのは本当にもったいない失点です。特に、文章理解+情報通信で5問以上得点できれば、残りの分野が苦手でも十分足切り回避が可能です。
つまり、全体像を俯瞰し、優先順位をつけて学習する「戦略眼」がここでも問われているということです。
3.4. 学習時間1,000時間の壁──社会人にとって最大の試練
行政書士試験の合格に必要とされる学習時間は、法律初学者で800〜1,000時間が目安とされています。これは1日2時間のペースでも約1年かかる分量であり、特にフルタイムで働きながら挑戦する社会人にとっては、最も大きな「見えない壁」となる部分です。
■ 合格者が実践している“学習時間の捻出法”
- スキマ時間の最大活用:通勤電車の中、昼休み、就寝前の30分など、細切れの時間も積み上げれば数百時間になる。
- 朝型への生活シフト:夜は疲れて集中できないという人も多いため、朝早起きして1時間確保する“朝活”スタイルが有効。
- 人付き合い・趣味の取捨選択:合格するまでの一定期間、交友関係や余暇活動の一部を見直す覚悟が必要。
■ モチベーションの維持は「環境」と「仕組み」がカギ
長期戦では“心が折れる瞬間”が何度も訪れます。そこで重要なのが、自分を律する仕組みづくりです。
- 学習スケジュールを可視化(Googleカレンダー、学習管理アプリなど)
- 1週間に1度は“ごほうび日”を設けてリフレッシュ
- 同じ目標を持つ仲間と情報交換し、孤独感を軽減する
◯ 合格は「才能」より「継続の工夫」
行政書士試験に必要なのは、天性のセンスよりも、毎日机に向かい続ける“仕組み化された努力”です。仕事・家庭・学習のバランスをどう設計するかが、合格の決め手となります。
4. 試験を正しく見極める──誤解をデータで解き明かす
4.1. 「行政書士は簡単に受かる」は本当か?──楽観的な誤解をデータで検証
行政書士試験に関しては、インターネット上や一部の書籍、体験談などで「誰でも受かる」「簡単になった」といった楽観的な声が聞かれることがあります。しかし、これらの印象や主張は、客観的なデータや制度の実態と大きく乖離しています。
■ 【事実①】10人中9人が不合格になるという現実
試験の合格率は、直近10年間でおおむね10〜15%の範囲にとどまっています。つまり、受験者の85%〜90%は毎年不合格となっているというのが現実です。
この合格率は、「とりあえず受けてみた」層も含まれているとはいえ、真剣に勉強してもふるい落とされる厳しい試験であることは間違いありません。
■ 【事実②】“足切り制度”という高いハードル
行政書士試験では、科目ごとに最低限クリアすべき得点(基準点)が設定されており、いずれか一つでも基準を下回れば総合得点がどれだけ高くても不合格となります。
- 法令等科目で122点未満(50%未満)
- 一般知識等科目で24点未満(約43%未満)
- 総得点180点未満(60%未満)
このような「足切り制度」は、バランスの取れた学習をしていないと容赦なく不合格になる制度であり、「得意分野だけで逃げ切る」ことができない構造的な厳しさがあります。
■ 【事実③】必要なのは知識だけでなく“応用力”
行政書士試験で特に配点の高い民法や行政法では、単なる暗記では太刀打ちできない条文の理解力と事例への応用力が求められます。
また、記述式問題では、法律用語を用いた論理的な文章構成が必要であり、単純な知識の量だけで突破できる試験ではありません。
■ 【事実④】「短期合格」の影には特別な条件がある
「3ヶ月で合格」「独学でも簡単」などの声もありますが、よく見るとこれらの多くは次のようなケースに該当します:
- 法学部出身者など、もともと法律の基礎知識がある
- 試験勉強に専念できる時間的余裕がある
- 他の資格でカバー範囲が重複していた
このような“有利なスタートライン”を持つ一部の人の体験談を、すべての受験生に当てはめるのは危険です。
◯ 結論:行政書士試験は“簡単そうで奥が深い”
受験資格に制限がなく、テキストや過去問も豊富に流通しているため、一見すると「取り組みやすい試験」に見えるかもしれません。しかし、制度設計や出題形式、配点バランスを理解すればするほど、戦略性と継続力が不可欠な“難関国家資格”であることが明らかになります。
安易な楽観論に流されず、正しい現状認識からスタートすることが、合格への第一歩です。
4.2. 「自分には無理」と思っていませんか?──悲観的な誤解を事実で正す
行政書士試験に対して、「合格率10%」という数字だけを見て、「自分には無理だ」「一部の天才しか受からない」と感じてしまう方も少なくありません。
しかし、実際にはこれは構造と戦略を正しく理解すれば、誰にでも“現実的に狙える資格”です。以下に、よくある悲観論への根拠ある反証を紹介します。
■ 【事実①】「10%」という数字のカラクリ
第2章でも解説したとおり、公式の合格率(10〜15%)は、十分な学習準備ができていない“記念受験層”も含んだ数字です。
本気で学習に取り組んだ受験生に限って言えば、実質的な合格率はもっと高いと分析されています。つまり、合格できるかどうかは、「他人との勝負」ではなく、「準備の質」にかかっているのです。
■ 【事実②】相対評価ではない=自分との戦い
行政書士試験は、司法書士や弁護士試験とは異なり、相対評価ではなく絶対評価の制度です。
- 合格基準:300点満点中180点(60%以上)
- 足切り基準:法令等で122点以上、一般知識で24点以上
このように「基準を超えれば誰でも合格」という仕組みのため、他の受験者がどれだけできようが関係ありません。到達目標が明確だからこそ、対策の方向性も立てやすい試験なのです。
■ 【事実③】戦略で攻略できる構造になっている
行政書士試験は、出題範囲が広い一方で「合格のために重点を置くべき領域」が明確にあります。たとえば、
- 行政法・民法にリソースを集中する
- 商法・基礎法学は最小限で効率よく処理
- 一般知識の足切りを文章理解+IT分野で確実に回避
こうした戦略に基づいて計画的に学習すれば、合格ラインの180点を目指すことは十分に現実的です。
◯ 結論:「できない試験」ではなく「正しく攻略する試験」
行政書士試験は、「才能で勝負する試験」ではありません。正しい戦略と一定の学習時間、そして“やり切る力”があれば、社会人でも、初学者でも、合格は十分に可能です。
数字に圧倒されてスタートをためらうのではなく、まずは構造を理解し、目標を見える化することが合格への第一歩です。
5. 結論:合格を分けるのは“才能”ではなく「継続」と「戦略」
ここまで見てきたように、行政書士試験の難しさは、単なる合格率の低さにあるのではなく、その構造的な特性にあります。
■ 表面的な「10%」の数字に惑わされないこと
毎年公表される合格率10〜15%という数字は、受験者の多様性(未準備層・記念受験層を含む)や試験制度の設計(絶対評価+難易度調整)を背景にした見かけ上の平均値です。
本気で合格を目指す受験生にとっては、実際の合格可能性はこの数字よりもずっと高い――。これがデータと制度を分析した結果、導き出せる正確な視点です。
■ 本当の壁は「戦略なき努力」と「続かない学習」
行政書士試験において合格を阻む“本当の壁”は、以下の4点に集約されます:
- 出題範囲が広大な法令等科目(特に行政法・民法)
- 採点基準が非公開でありつつも高配点な記述式問題
- 足切りという構造的リスクをはらんだ一般知識等科目
- 社会人にとって極めてハードルの高い、800〜1,000時間の学習時間とモチベーションの維持
これらを乗り越えるには、“気合”や“根性”よりも、冷静に計画を立て、習慣として継続する力が求められます。
■ 合格する人に共通する3つの視点
行政書士試験に合格する人たちは、以下のような視点を持っています:
- 「得点できる科目・形式」に的を絞り、戦略的に学習している
- 合格ライン(180点)を明確なゴールとして意識し、逆算思考で進めている
- 学習を“生活の一部”に組み込むことで、継続を“当たり前化”している
つまり、合否を分けるのは才能ではなく、戦略的規律と継続力なのです。
◯ 最後に──挑戦に価値がある資格
行政書士試験は、「誰でも受けられる試験」であると同時に、「誰でも簡単に受かる試験」ではありません。
しかし、出題範囲・制度の仕組み・得点戦略を理解し、自分に合った学習スタイルを確立できれば、社会人でも初学者でも、現実的に狙える国家資格であることは間違いありません。
数字に振り回されず、制度の本質を見極めたうえで、自分だけの“合格戦略”を描く――
その一歩を踏み出せる人こそ、行政書士試験において最も合格に近い位置にいるのです。