第1章|辰已法律研究所 行政書士講座の全体像
1.1 指導理念と市場での位置付け ― 司法試験予備校として培った半世紀の蓄積
辰已法律研究所を語るうえで外せないのは、司法試験受験指導機関として約50年の歴史を持つという点です。
1973年の創立以来、法曹界へ多数の合格者を送り出してきた実績は、単なる資格予備校ではないというブランド価値を形成しています。
掲げる理念「あなたの熱意・辰已の誠意」は、受験生一人ひとりの意欲に真摯に向き合う教育姿勢を象徴しています。
行政書士講座も、この司法試験指導の伝統を色濃く反映。単なる試験範囲の知識習得にとどまらず、司法試験や司法書士試験、公務員試験などの知見を応用し、法律を体系的かつ高次の視点から理解させる「トップダウン型」のアプローチを採用しています。
例えば「直前総整理マスター講座」では、行政書士試験の過去問だけでなく、司法試験や司法書士試験の過去問も分析対象とし、問題の本質を突いた出題予測を行います。また「基本書フレームワーク講座」では、大学教授が執筆した定評ある法律学の基本書を教材に指定し、法的理解の深度を飛躍的に高める構成となっています。
このように辰已は、自らを「合格のための予備校」ではなく「法律教育機関」と位置付け、合格後も通用する法的素養を身につけさせることを目的としています。
1.2 2025年講座ラインナップ ― 初学者から上級者まで網羅する多層戦略
2025年合格目標の辰已行政書士講座は、学習経験や目的に応じて多様なコースが用意されています。
- 初学者・経験者向け
中核は「合格スタンダード講座」シリーズ。短期集中型の「速習スプリンター☆合格スタンダード講座」や、翌年の試験までじっくり学べる「ロングプレミア☆合格スタンダード講座」など、学習期間やペースに合わせて選択可能です。 - 学習経験者向け専門コース
「基本書フレームワーク講座本科生プラス」では大学レベルの基本書を活用し、法的思考力と体系的理解を養成。
「上級ファンダメンタル講座本科生プラス」では基礎知識を再構築し、暗記に依存しない応用力を鍛えます。 - 単科・補助講座
記述式対策に特化した「記述式マスター総合講座」や、質の高さで知られる「直前合格答練」「全国公開完全模試」など、必要に応じて追加受講できる講座群も充実。
この多層構造により、辰已は大手予備校と競合する一般市場向け講座を提供しつつ、上級者向け講座を“ハロー効果”としてブランド価値の底上げに活用しています。
1.3 価格帯と価値提案 ― 「費用」より「質」に重きを置くプレミアム戦略
辰已の価格設定は、市場の中でも最高水準に位置します。
- 初学者向けコース
「速習スプリンター☆合格スタンダード講座本科生」…199,600円
「合格スタンダード講座本科生」…234,500円 - 上級者向けコース
「基本書フレームワーク講座本科生プラス」…316,800円~362,000円
この価格は、オンライン特化型で低価格を売りにするスタディング(約69,400円)などと比べると大きな開きがあります。
辰已は価格競争を避け、「司法試験指導の伝統」「高度な法的思考力養成」「質の高い演習問題」「専門講師陣」という独自価値に基づき、受講生に“質への投資”を促す戦略を取っています。
結果として、多忙な社会人や親世代の学習者にとっては、「安価で効率的な講座で時間短縮を狙う」か、「高額でも確実性と深い学びを選ぶ」かという明確な選択を迫ることになります。
第2章|教育手法の詳細分析 ― カリキュラム・教材・サポート体制
2.1 「辰已メソッド」徹底解析 ― 法的思考力を養う高度設計
辰已法律研究所の教育手法の核は、単なる知識の暗記ではなく「法的思考力(リーガル・マインド)」の徹底的な養成にあります。
特に上級者向けコースでは、法律や判例の制度趣旨・背景を理解し、未知の論点にも対応できる思考の枠組み(フレームワーク)を築くことを目的としています。
その代表例がクロスリファレンス学習法。
大学の基本書・講義スライド・辰已オリジナルの「パーフェクト過去問集」を相互に参照しながら学ぶことで、知識が有機的につながり、体系的な理解を促します。
さらに、具体と抽象の往復演習も特徴的です。
行政書士試験のみならず司法試験・司法書士試験などの過去問を活用し、具体的な事例から抽象的な法理を導き出し、再び別の具体的事例に適用する訓練を繰り返します。
初学者向けの「デイリー180講座」でも同じ思想が貫かれています。
25分前後の集中学習(ポモドーロ・テクニック)を活用し、多忙な社会人でも継続可能な設計としつつ、早期にアウトプット段階へ移行させる構成です。
この「辰已メソッド」は、近年増加傾向にある思考力型問題への対応力を高める一方、高い集中力と学習エネルギーを要求するため、受講者の適性や環境によっては負担になる可能性もあります。
2.2 教育資産の全容 ― 大学レベルの基本書と高精度の演習問題
辰已の教材は、インプット用とアウトプット用で性質が大きく異なります。
- インプット教材(テキスト類)
上級コースでは、大学教授が執筆した著名な基本書(例:『リーガルベイシス民法入門』『憲法学読本』)を指定し、別途購入を求めます。
これに加え、辰已オリジナルの「総整理ノート」や「パーフェクト過去問集」を併用。後者は司法試験・司法書士試験問題も収録し、網羅性が極めて高いと評価されています。
一方で、教材の分量や難易度の高さから「行政書士試験にはオーバースペック」と感じる受講者もおり、特に兼業の初学者には負担になる場合があります。 - アウトプット教材(答練・模試)
辰已の最大の強みは「答練」の質にあります。
代表的な「直前合格答練」(全7回)は本試験レベルの問題で構成され、実戦力を鍛える設計。
他校受講者が答練や模試のみを受講するケースも少なくなく、「全国公開完全模試」や科目別の「民☆行チャレンジ模試」も高い評価を得ています。
この二面性から、戦略的には初期インプットは効率重視の他校で行い、最終仕上げを辰已の答練・模試で行うハイブリッド受講が有効な場合があります。
2.3 講師陣とサポート ― 専門性は高いが、スピード感に課題
辰已の講師陣は、法学教育と実務経験の双方に精通しています。
例として、山田斉明氏はロジカルシンキングと心理学を融合させた指導法を展開し、竹内千佳氏は現役行政書士として実務と大学教育を両立。こうした人材が高度な講義を提供しています。
一方で、サポート体制には改善の余地があります。
受講者レビューによれば、メール質問の返信に平均1週間を要した例があり、24時間以内の回答を掲げる競合と比べると遅さが目立ちます。
公式サイトでも質問制度の詳細(回数制限や返信期間)が明確に示されず、代わりに無料ガイダンスや個別相談会など、事前予約型の支援が前面に出ています。
このため、短期間で集中的に疑問を解消したい学習者や、夜間・休日に学習時間を確保する社会人にとっては、サポートの即時性が不足していると感じられる可能性があります。
第3章|実績と市場評価
3.1 公式データ非公表の背景と受講者への影響
辰已法律研究所は、行政書士講座における合格率や合格者数といった公式な実績データを一切公表していません。
公式サイトには「合格者の声」として個別の体験談は掲載されていますが、全体的な成果を示す統計情報は存在しません。
この姿勢は、合格率を積極的に公開するアガルート(例:令和5年度合格率 56.11%、全国平均の数倍)や、合格者数を提示するTACなどとは対照的です。
非公表の背景としては、以下の可能性が考えられます。
- 要求水準が高く、脱落率が一定程度存在するため、合格率が見栄えしない
- 教育的価値を単一の数値に還元しないという哲学的理由
- 受講生の試験結果を継続的に追跡する仕組みが整備されていない
いずれの理由であれ、受講希望者にとっては検証可能な客観的指標が欠如していることになります。
特に高額講座の場合、成果の裏付けがないことは大きなリスク要因となり、「ブランドの威信」や「口コミ」に依存した判断を迫られる状況が生じます。
3.2 受講者レビューに見る評価の二面性
オンライン上の口コミやレビューを分析すると、辰已行政書士講座の評価は高く評価する声と厳しい意見がはっきりと分かれる「二極化傾向」があります。
肯定的評価
- 講義・教材の質
「講義が本質的で分かりやすい」「過去問の根拠ページが明示されており復習しやすい」など、内容の深さと緻密な設計を評価する声が多い。 - 答練の圧倒的品質
他校の受講生も辰已の答練や模試だけを受講するケースがあるほど、問題の質は業界内でも高く評価されている。 - 講師の専門性と熱意
特定講師の指導力やモチベーション維持の力を称賛するレビューも散見。
否定的評価
- 難易度・分量の過剰感
「行政書士試験には難しすぎる」「教材が細かすぎて消化できない」といった、特に兼業初学者層からの声。 - 受講料の高さ
市場平均より高額である点に対するコスト面の懸念。 - サポートの遅さ
「質問の回答に平均1週間かかる」など、即時性を求める受講者には不満が残る。 - 実績データの不透明さ
合格率非公表への不安を指摘する声。
総合的評価
辰已が評価される最大の理由である「深さ」「網羅性」「高いレベルの演習」は、そのまま批判される「難しさ」「ボリューム」「オーバースペック感」の裏返しです。
法律学習経験者や上位資格志向者にとっては理想的な環境となり得ますが、時間や基礎力が限られる多忙な初学者層にとっては高いハードルとなる可能性があります。
第4章|競合環境比較
4.1 競合ポジショニング・マトリクス(2025年版)
辰已法律研究所の行政書士講座は、「法律学習経験者向け」「質重視の高価格帯」という明確なポジションを取っています。
以下の比較表は、主要予備校との指導理念・価格帯・対象者・サポート体制の違いを示したものです。
予備校名 | 主な対象者 | 指導理念 | 初学者向けコース価格帯 | 講義時間(目安) | 教材スタイル | サポート体制 | 主な差別化要因 | 合格率公表 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
辰已法律研究所 | 法律学習経験者、学究志向の学習者 | 司法試験の知見を活かした本格的法律教育 | 20万〜36万円台 | 160〜220時間超 | 学術的基本書+網羅的オリジナル教材 | 個別相談会中心、メール質問は返信遅延の指摘あり | 答練の質・法的思考力の徹底養成 | 非公表 |
伊藤塾 | 法律を本格的に学びたい幅広い層 | 「真の法律家」育成、体系的理解重視 | 18万〜26万円台 | 150〜250時間 | 網羅的オリジナルテキスト(モノクロ) | 丁寧・迅速な質問対応、カウンセリング制度 | 講義質とサポートの両立 | 非公表(合格者数は公表) |
TAC / LEC | 初学者〜経験者まで幅広く対応 | 実績に基づく標準的・網羅的カリキュラム | 約20万円前後 | 150〜190時間 | 定評あるテキスト(カラー/白黒混在) | 校舎・自習室・多様なフォロー制度 | 大手の信頼とネットワーク | 非公表(合格者数は公表) |
アガルート | 効率重視型の全学習者 | 戦略的カリキュラムと短期合格 | 約20万円台 | 約180時間 | フルカラー図解、高出題カバー率 | オンライン質問・Zoomゼミ | 高い合格率公表、全額返金特典 | 公表(非常に高い) |
スタディング | 価格・時間効率優先の独学者 | スキマ時間の徹底活用 | 3万〜7万円台 | 90〜110時間 | Web中心(冊子はオプション) | Q&Aは有料または上位コース | 圧倒的低価格とスマホ学習機能 | 非公表(合格者数は公表) |
4.2 学究的ライバルとの比較 ― 伊藤塾
辰已と伊藤塾は、共に法律を深く体系的に学ばせるプレミアム系予備校として知られますが、アプローチに明確な違いがあります。
- 教材の方向性
辰已は「基本書フレームワーク講座」で大学レベルの学術書を積極的に採用し、よりアカデミックな探究を促す構成。
一方、伊藤塾はオリジナルテキストのみで完結できる設計を採用し、「他教材不要」との信頼を得ています。 - サポートの質
伊藤塾は質問対応の丁寧さ・迅速さ、カウンセリング制度など「伴走型」のサポートで高評価。
対照的に辰已は、メール質問の返信遅延など即時性に課題があり、事前予約型の相談会が中心です。 - 対象者層
伊藤塾は「スピードマスター講座」など短期型コースもあり、幅広い層に対応。
辰已は学習経験者や学究肌の層に特化し、初学者向けではハードルが高めです。
4.3 業界大手との比較 ― TAC・LEC
TAC・LECは規模と実績に裏付けられた大手予備校で、辰已とは異なる強みと弱みを持ちます。
- 辰已の優位性
司法試験予備校として培った高度な専門性、特に答練の質は他社を凌駕。
個別講師が熱意を持って指導する傾向があり、パーソナルな対応が期待できます。 - 辰已の弱点
高価格でありながら、大手のような全国規模の校舎・自習室ネットワークや振替制度といった物理的インフラには劣ります。
また、実績データ非公表により、大手の「実績の可視化」に対抗しにくい面があります。
4.4 デジタル時代の挑戦者との比較 ― アガルート・スタディング
アガルートやスタディングはオンライン特化型予備校として、辰已とは全く異なる市場セグメントで競合します。
- 価格面
アガルート(約20万円台)、スタディング(約3万〜7万円台)に対し、辰已は初学者コースでも約20万円後半〜上級者向けは30万円超と明確な高価格帯。 - 学習スタイル
辰已は講義+テキスト中心の伝統的学習スタイル。
アガルートやスタディングは、動画・デジタルテキスト・AI復習機能・学習者コミュニティなどを統合し、スマホ完結のスキマ時間学習に最適化。 - 実績の提示
アガルートは高い合格率の公表と全額返金保証で受講リスクを大幅軽減。
辰已は合格率非公表のため、実績を「ブランドの信頼」に依存。 - サポート体制
アガルートは無制限質問(Facebookグループ)やZoomゼミを提供。
スタディングは上位コースにQ&Aチケットを付帯。
対照的に辰已は事前予約型の相談会中心で、即時性に乏しいのが弱点です。
第5章|「時間がない専門職・親」のための戦略的評価
5.1 「オーバースペック」性の検証 ― あなたにとって資産か負債か
辰已の行政書士講座は、内容の深さ・教材の網羅性・学術的水準の高さという点で「オーバースペック」と評されることがあります。
この性質は、受講者にとって資産にも負債にもなり得ます。
- 資産となる場合
高度な法的思考力と確固たる知識基盤が身につくため、本試験で未知の論点や応用問題にも柔軟に対応可能になります。
これにより、一発合格の確実性が高まり、再受験に費やす一年という「未来の時間」を節約できる可能性があります。 - 負債となる場合
膨大な教材分量や高度な学術書、知的要求水準の高さが、多忙な社会人や家庭を持つ学習者にとっては大きな負担となり、挫折や燃え尽き症候群(バーンアウト)を招くリスクがあります。
結論として、法律学習経験がない初学者や学習時間が限られる層にとっては負担が大きく、逆に法学部卒や上位資格志向者にとっては他に代えがたい強力な資産となります。
5.2 ROI分析 ― 高額投資は妥当か
辰已の講座は20万〜36万円超という高価格帯に位置し、さらに多大な時間的・精神的コストも伴います。
この投資に対するリターンは、単なる合格だけでなく「質の高い法律教育」という無形資産です。
しかし、合格率などの客観的データが非公表のため、定量的なROI(投資収益率)を算出することは困難です。
結果として、受講判断はブランドの信頼や口コミに依存せざるを得ません。
他社との比較では以下の傾向が見られます。
予備校名 | 価格帯 | ROI判断要素 |
---|---|---|
辰已 | 20万〜36万円超 | 質重視・実績非公表、ブランドへの信頼が前提 |
アガルート | 約20万円台 | 高合格率公表+全額返金保証でリスク低減 |
スタディング | 約3万〜7万円台 | 低価格・自己管理型でコスパ重視 |
実利重視・低リスク志向の層にとっては判断が難しく、品質と威信への投資を受け入れる覚悟がある人向けと言えます。
5.3 推奨ターゲット層と記事構成の方向性
分析を踏まえると、辰已行政書士講座は以下の層に特に適しています。
- 法律学習経験者
法学部卒業生や実務で法律知識を活用してきた人など、基礎知識があり体系的な復習を求める層。 - 上位資格志向者
行政書士試験を司法書士・司法試験等へのステップと考える受験者。 - 品質至上主義者
価格よりも学習の深さや質を重視し、厳しい環境こそ成長につながると考える層。
記事構成上の推奨アプローチ
辰已を一律に「おすすめ」または「非推奨」とするのではなく、
「効率性重視の多忙な初学者には他の選択肢を推奨するが、特定の条件を満たす層にとっては極めて価値の高い自己投資となる」
という二段構えの結論が望ましいでしょう。
こうした書き方は、読者の多様なニーズを理解していることを示し、サイトの信頼性向上にもつながります。

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