行政書士試験の「捨て問」の見抜き方｜通信講座が教えてくれる合格のための割り切り術

第1章｜「捨て問」を見抜く力：合格者が実践する戦略的スクリーニング

1.1 「難問」を超えた――専門的な「捨て問」定義

行政書士試験における「捨て問」は、単に「難しいから後回し」という次元の話ではありません。
それは、試験委員が意図的に仕掛けた“合格者選別用のトラップ”であり、受験生の知識・時間配分・精神的持久力、そして最も重要な「見切りの判断力」を試すために配置されます。

実際、「捨て問」は偶発的な出題ではなく、出題者が「実力不足の受験生を効率的にふるい落とす」ための設計要素と分析されています。
この本質を理解することこそ、学習戦略を抜本的に見直す第一歩です。

質的特徴：罠としての出題パターン

• 判例のひねり
  過去問では結論だけを問うた判例について、本試験では理由付けである「違憲審査基準」を問うなど、受験生の暗記依存を逆手に取る形式。
• 数字の微妙な差し替え
  例：「衆議院の優越」における議決期限（内閣総理大臣の指名＝10日、予算・条約＝30日、法律案＝60日）を、わずかに入れ替えて混乱を誘う。
• 重要度の低い知識の採用
  マイナーな学説や、判例中でも重要性が低い部分をあえて問う設問。

量的基準：客観的データで線引き
大手予備校TACのデータによれば、正答率40％未満の問題は「解けなくてもよい問題」と分類されます。
この「40％ルール」は、主観的な「難しい」感覚に頼らず、捨てるべき問題を判断する強力な基準になります。

1.2 科目別に見る「捨て問」多発エリアと注意すべきポイント

出題傾向を分析すると、「捨て問」が集中しやすい科目・分野が存在します。事前に把握しておくことで、試験当日の時間ロスや精神的動揺を最小限に抑えられます。

• 商法・会社法
  学習範囲が広い一方で配点が少なく、「時間効率が極めて悪い科目」の代表格。
  満点狙いは非効率で、「条文知識で5問中1～2問取れれば上出来」という割り切りが王道戦略です。場合によっては、優先度を大幅に下げる「捨て分野」指定も検討対象。
• 民法・行政法
  主力科目であっても安心できません。過去問の答え暗記型学習では対応できない「ひねり問題」が潜み、特に判例理由や細かい制度運用部分で罠が仕掛けられる傾向があります。
• 一般知識等
  「個人情報保護」「文章理解」は確実な得点源ですが、「政治・経済・社会」分野は出題範囲が広すぎ、深入りすると効率が急落します。ここで高得点を狙う戦略は、他科目の学習時間を圧迫するリスクが大きい分野です。

重要ポイント
「捨て問」の本当の脅威は“問題の難易度そのもの”ではなく、「これは解くべきか否か」の診断の難しさにあります。
独学者は、出題の意図を見極める客観データを持たないため、「戦略的に捨てるべき問題」と「努力すれば取れる問題」を混同しがちです。結果として、時間の浪費と精神的消耗が連鎖し、合格可能性を自ら削ってしまうのです。

第2章｜独学がはらむ構造的リスク：努力が成果に直結しない理由

2.1 完璧主義が引き起こす「優先順位崩壊」

特に、仕事や学業で成果を上げてきた真面目な社会人受験生ほど陥りやすいのが、「すべての論点をマスターしなければならない」という完璧主義の罠です。
一見すると向上心の表れですが、行政書士試験においては致命的な戦略ミスになり得ます。

実例として、ある独学経験者は総学習時間1,000時間超のうち、実に300時間以上を優先度の低いCランク論点に費やしたと告白しています。
その結果、本来確実に得点すべきA・Bランク論点の定着が不十分となり、合否を分ける基礎得点を落とす結果に。
「これまでで一番勉強したのに惨敗」という声は、まさに優先順位を誤った末路を物語っています。

2.2 認知負荷理論が明かす「学習効率低下」の正体

教育心理学の認知負荷理論（Cognitive Load Theory）によれば、人間のワーキングメモリ（短期記憶容量）には明確な限界があります。学習時の負荷は次の3種類に分類されます。

種類	内容	行政書士試験での例
内因性負荷（Intrinsic Load）	学習内容そのものの難しさ	代理や行政行為の概念理解
外因性負荷（Extraneous Load）	学習内容とは無関係な精神的負担	「今日は何を勉強するか」「この問題は捨て問か」などの意思決定
本質的負荷（Germane Load）	知識の整理・統合（スキーマ化）のための負荷	判例や条文の関連付け、事例適用演習

独学者は、この中でも特に外因性負荷が過剰になりがちです。
「どの教材を選ぶべきか」「優先度は高いか」「学習順序は正しいか」――こうした迷いや不安が脳の処理能力を奪い、本来集中すべき本質的負荷に回すリソースが激減します。

言い換えれば、独学者は「学習者」と「教務担当者」の二役を同時にこなす状態であり、効率的な学習が阻害される構造を抱えているのです。

2.3 試験本番で起こる「失敗の連鎖」

認知負荷が高いまま本試験に臨むと、以下のような典型的失敗シナリオに陥ります。

1. 遭遇
   試験序盤、見たことのない「捨て問」に直面。
2. 固執
   完璧主義が働き、「解けるはずだ」と思い込み、1問に5分以上かけてしまう。
3. パニック
   時間の浪費に気づき焦燥感が増大。冷静さを失う。
4. 崩壊
   焦って進めた結果、正答率80％超の得点源問題でケアレスミスを連発し、合計点が大幅に低下。

この一連の流れは、能力不足や意思の弱さではなく、独学という学習システムが生み出す認知過負荷構造の帰結です。
解決のためには、同じ独学環境で「もっと頑張る」のではなく、外因性負荷を徹底的に排除できる仕組みへの移行が不可欠となります。

第3章｜プロが設計した勝利のシステム：通信講座が生む合格力

3.1 「合格点主義」という戦略的発想

優れた通信講座の根底には共通する思想があります。それは「全範囲の完全習得ではなく、合格点180点を最短で確保すること」に特化する「合格点主義」です。
この方針は、フォーサイトの「合格点主義」や、TACの「合格点180点（6割）を確実に取る」という明確なコンセプトとして打ち出されています。

この発想は、独学者を苦しめる「完璧主義」の呪縛を解き放つ“解毒剤”とも言えます。
「すべてを学ぶ必要はない」という許可を受けた瞬間、受験生は重要論点に集中でき、戦略的な学習が可能になるのです。

3.2 各講座が採用する「捨て問」対策の分解

通信講座は「合格点主義」を実現するため、多層的な手段を組み合わせた学習エコシステムを構築しています。

1. 講義での明確な取捨指示

• アガルートでは「これは捨て問」「復習不要」と講師が明言し、受講生の迷いを排除。
• TACは講義中に「合格点主義」を強調し、狙うべき論点を明確化。
• LECでは地方自治法の一部を「捨て科目」として指示するケースも。

2. テキストでの優先順位の可視化

• TAC：A/B/Cランクを明記し、一目で重要度が分かる構成。
• LEC：「出る順」シリーズで過去出題頻度を示し、優先度を自然に把握できる。
• フォーサイト：フルカラーテキストで重要箇所を強調し、認知負荷を軽減。

3. カリキュラム設計で「捨てる」を組み込む

• フォーサイト：「得点しにくい科目は捨てる」方針で高得点分野に集中。
• スタディング：必要最小限の学習内容に絞り、短期合格を狙う効率設計。

4. テクノロジーによる自動化支援

• スタディング：「学習フロー」機能が次にやるべき単元を自動提案。
• 「AI問題復習」機能が個人の正答率に応じた最適復習計画を作成。

3.3 主要講座別「捨て問」対策比較表

特徴 / 講座名	伊藤塾	アガルート	TAC	LEC	フォーサイト	スタディング
講義での捨て問指示	根本理解を促し応用に対応	「これは捨て問」「復習不要」と明言	「合格点主義」を講義で強調	「捨て科目」を明示	得点しにくい分野の省略を推奨	高頻度論点に集中
テキストの優先順位表示	網羅的で質の高い教材	講義連動でメリハリ	A/B/Cランクを明記	出題頻度でランクを推測可能	フルカラーで重要箇所を強調	デジタルテキストで要点連動
カリキュラム思想	盤石な基礎力を重視	戦略的な論点絞り込み	合格点主義で効率的に得点	出題パターン分析重視	合格点主義＋短期合格狙い	必要最小限に特化
効率化技術	講義・教材の質重視	高品質オンデマンド講義	教室＋オンラインのハイブリッド	同左	eラーニング「ManaBun」	AIによる優先順位自動化

まとめ
通信講座の真価は、個々の機能よりも、それらを統合して「外因性認知負荷」を徹底的に排除する点にあります。
講義での取捨指示、テキストの優先順位、戦略的カリキュラム、そしてテクノロジー活用――これらが一体となり、受験生を“勉強そのもの”に集中させる環境を構築します。
同じ教材を独学で使っても、このエコシステム全体を享受できなければ、効果は半減してしまうのです。

第4章｜勝者の思考法：何を手放し、何を守るか

4.1 合格の算数 ― 180点を取れば十分な理由

行政書士試験は300点満点中180点（6割）で合格できる絶対評価の試験です。
この数字が意味するのは、全体の40％、すなわち120点分は間違えても合格できるという事実です。

• 法令等科目：244点中122点以上（50％以上）
• 一般知識等科目：56点中24点以上（約43％以上）
• 総合計：300点中180点以上

特に一般知識等は、24点（4問正解）さえ確保すれば足切りを回避できるため、全範囲を網羅しようとする戦略は非効率です。
さらに過去には、平成26年度試験で難易度が高すぎたため、合格基準点が166点に引き下げられる補正措置が行われた例もあります。
このことからも、試験は「完璧な得点」を求める設計ではなく、180点を超える戦略的得点獲得が最適解であることがわかります。

4.2 「捨てる勇気」を戦略に変える心理学

多くの受験生は「問題を飛ばす」ことに罪悪感や恐怖を抱きます。
しかし、それを失敗の証ではなく“戦略的判断”の結果として捉えることが、合格者の思考法です。

ある専門家は、捨てるべき論点の5条件として以下を挙げています。

1. 習得に時間がかかりすぎる難問
2. 配点の低い科目や分野
3. 過去10年以上出題実績のない論点
4. 他の受験生も解けないであろう奇問・難問
5. 直近年度で既に出題された論点

心理的な抵抗を減らすには、アドラー心理学の「課題の分離」が有効です。
「何を学ぶかを取捨選択する」ことは通信講座や講師の課題であり、受験生自身の課題は「学ぶこと」に専念すること。
役割を明確に分けることで、「この勉強で合っているのか」という不安から解放されます。

4.3 合格者の実例と例外事項（記述式は捨てない）

実際、戦略的に「捨て問」を導入した多くの受験生が短期合格を果たしています。
ただし、この戦略には絶対に捨ててはいけない分野があります。それが記述式問題（配点60点）です。

記述式は部分点が与えられるため、完全解答ができなくても、
関連する条文・要件・キーワードを盛り込むだけで数点を獲得できる可能性があります。
この数点が合否を分けることも珍しくありません。

つまり、真の「捨て問」戦略とは、配点効率が低く合格に直結しない問題を勇気を持って手放し、 配点効率が高く部分点も期待できる問題は最後まで粘るというバランス感覚です。

まとめ
「捨て問」戦略は単なる勉強法ではなく、「網羅主義」から「戦略的得点主義」への思考OSの切り替えです。
通信講座は、その切り替えを促すためのデータ・カリキュラム・心理的後押しを提供する、
最も強力なサポーターとなります。

結論｜あなたの最大の資産は「時間」――合格への最も賢明な投資とは

本稿で明らかになったのは、行政書士試験における独学の非効率性は、
受験生の能力や努力不足ではなく、学習システムそのものの構造的欠陥に起因しているという事実です。

独学者は、学習内容そのものに加えて、
「何を・どの順番で・どこまで深く学ぶか」という膨大な意思決定――すなわち外因性認知負荷――をすべて自分で抱え込まなければなりません。
これは限られた時間しか持たない社会人受験生にとって、極めて大きなハンディキャップです。

通信講座の受講料は、単なる教材や情報への支払いではありません。
それは「外因性認知負荷」を専門家にアウトソースするための戦略的投資です。
つまり、知識の取捨選択、学習計画の立案、時間配分戦略といった合格に不可欠な作業を、その道のプロに委託する行為です。

この投資により、受験生は自らの最も貴重で、二度と取り戻せない資産――時間と集中力――を、
本質的な学習（条文理解、判例分析、事例適用など）に全力で投下できます。

結果として、

• リスクを最小化し
• 合格可能性を最大化し
• 人生の貴重な時間を守る

という、三重のメリットを得ることができます。

過去の受験生が陥った“遠回り”を避け、最短距離で合格するルートは既に存在します。
その道を選ぶか否かは、あなたが「時間」をどう扱うかという価値観に委ねられています。